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どこで止めても見る理由のあるスキップされない映像を〈職種研究レポート〉

ブレーン編集部

どこで止めても見る理由のあるスキップされない映像を〈職種研究レポート〉

「私にペンを売ってみてください」採用面接での質問に学生は──。ブレーン主催のオンライン動画コンテスト「BOVA」のグランプリを受賞した「面接」(課題:マスメディアン)。博報堂と太陽企画の制作チームにその意図について聞いてみました。

メモと課題が結び付いて生まれた

主人公は、若き日に肩を壊し、プロ野球選手への道を断たれた面接官。突如肩が完治し、豪速球を投げられるようになる。改めてスカウトを受け、契約書を提出すれば晴れてプロ野球選手に。しかし、受付終了間際にペンが手元になくて契約書が書けない。提出できないまま締め切り時間となり、受付のシャッターが目の前で降りていく──。

実はこれ、面接官から「私にペンを売ってみてください」と質問された学生側の“妄想”のストーリーだった、というオチ。マスメディアンの課題「学生に『広告の仕事って面白そう!』と思ってもらえる動画」がテーマで、「広告の仕事は問いに対して想像力を存分に発揮できる仕事」であると伝える。


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「面接」(マスメディアン/マスナビ)

企画したのは、博報堂 CMプラナー/コピーライター 河内大輝さん。「普段からやってみたい企画をノートにまとめています。そこに、『面接官に私にペンを売れと言われて、ファンタジーな回答をする』と書いていたんです。そのメモと課題が結び付き、生まれたのが今回のアイデア。大人たちが集まって、自由かつ真剣に『面白さ』を考えるという広告業界の魅力を伝えることを目指しました」と話す。

演出ではツッコミどころを各所に盛り込むことを意識したという。「体が倒れるほどの剛速球や、草野球に助っ人外国人が登場したり、ペンが受付になかったり。ハチャメチャな妄想も企画に活かせることがあるのが広告の仕事。自由度を表現しつつ、視聴者を飽きさせない工夫です」(TOKYO ディレクター 西村征暁さん)。

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TOKYO ディレクター 西村征暁さんの描いた絵コンテ

こだわりたいポイントはたくさんあるものの予算が潤沢にあるわけではなかった。そこで、プロデューサー、プロダクションマネージャーが奔走した。「太陽企画の野球チームに声をかけ、撮影に参加してもらい、ユニフォームを借りました。主要な出演者以外は、太陽企画の社員です」(TOKYO プロダクションマネージャー 久保田明里さん)。

そして、TOKYO プロデューサー 井元俊輔さんは、「社内の制作部の力を最大限に活用できる日を選び撮影しました。特機の代わりに台車の上にカメラを置いて動かしたり、砂を投げてボールの迫力を出したり。予算が無くても工夫すればできることがあると、気付かされました」と話す。

妄想をとことん描き切ることで、広告の仕事の面白さが審査員にも伝わり、見事グランプリを受賞した。そして、完成して気付いたことがあると河内さん。「改めて見ると、どこで停止してもその瞬間に動画を見る理由がある。冒頭でスキップされがちな長尺動画は、全体のストーリーラインで惹きつける前に、細かな見る理由をちりばめておくことが大切なのかもしれません。これからも想像力を活かしてがんばります」。

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左から:TOKYO プロダクションマネージャー 久保田明里さん、TOKYO ディレクター 西村征暁さん、博報堂 CMプラナー/コピーライター 河内大輝さん、TOKYO プロデューサー 井元俊輔さん



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本記事はブレーン2021年8月号に掲載されたものです。