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レポート

コトバのTAKURAMI ─ I LOVE YOUを何と訳す?

マスナビ編集部

コトバのTAKURAMI ─ I LOVE YOUを何と訳す?

「企む=企画する」楽しさを通じて、未来を面白くするTAKURAMIを考えるキッカケになれば!そんな場を目指して、マスナビは新しいラボを2022年春からスタートします。

本格スタートに先立ち、実験的に始めてみたプロトタイプの授業。初回の先生は、コピーライターの阿部広太郎さん。授業のテーマは「コトバのTAKURAMI」。人の心や世の中を動かす、素敵な企みで満ちたコトバたち。本記事は日本大学にて日大広告研究会、Ad-Fesの協力のもと開催された授業の様子をお伝えします。コピーライティングとは? 企画とは? 阿部さん独自の言葉で解き明かします。


※新型コロナウイルスが蔓延する前の2020年1月に実施されたイベントを後日レポートとして掲載しております

「待っていても、はじまらない」から動き出した




コピーライターという肩書きにおさまらず、さまざまな企画をプロデュースしながら幅広く活躍する阿部広太郎さん。「今でしょ!」のフレーズで老若男女を席巻した話題のCM制作に携わることをはじめ、映画のプロデュース、作詞、テレビ番組の企画、舞台のプロデュースなど、数多くの企画を手がけてきました。

「もう10年くらい言葉と向き合う仕事をしていますが、入社当初は人事局に配属されました。その時は、自分にクリエイティブなセンスや才能があるわけないと思っていた。でも、どうしても“そっち側に行きたい”、“世の中に一体感をつくりたい”という思いが募り、クリエイティブへの転局試験を受けて合格し、念願のコピーライターという仕事に就けました」



今やコピーライターとして多くの実績を残している阿部さんも、最初の数年間は、いいコピーを書きたい…と焦りながら企画を考えていたそうです。そして、阿部さんが就職活動をしていた頃からずっと抱いていた“世の中との一体感”を実感したのが、あの有名なCMでした。

「東進ハイスクールの“今でしょ”というコピーは、先生たちの講習のDVDをたくさん観ていたなかで、実際に林先生が、センター試験の対策で漢字の勉強をする人はあまりいない“いつやるか、今でしょ”と話していた言葉を一緒にCM制作していた師匠と僕が見つけたんです。ちょうどあのCMが流れていた頃、ラーメン屋で隣に座っていたお父さんが、5歳くらいの娘さんに『いつ食べるの?』と聞いたんです。そうしたら『今でちょ!』と。ウオーッ!と思いましたね。多くの人に共有されていくことは、本当にすごいことだ、と」

ルールは照れるの禁止!

常に言葉と向き合い、ときには格闘する阿部さんが、今回、学生たちに出した課題は『I love youを伝える』。今のあなたなら、何と訳しますか? という投げかけから始まりました。

「I=私とはなにか? YOUとは? LOVEとは? あなたなら『I love you』を何と訳すか。言葉の意味とは、辞書の意味と世の中の意味、みんなが感じている意味、それぞれ違う場合があります。まずは言葉の意味を知って、言葉の輪郭を掴むこと。あなたが思っている『I love you』を考えて、それを言語化してみてください」




さらに、阿部さんはこう付け加えます。「コピーを書くのは恥ずかしいけど照れないで、どんどん書いて。今日のルールは照れないこと!」

「企画とは、わかろうとすること。わからないとさじを投げてしまうと、そこで終わってしまう。言葉を使って企画をつくる。そして企画を実現することで、自分が行きたい方向に飛べるんです」と阿部さんは力を込めます。さらに阿部さんは具体例で説明します。

「ある時、『世界で最も偉大な発明は?』と先輩に問われたことがあって、僕は『火』と答えました。一方で、コピーライターとして草分け的存在で、作家の故・開高健さんは『ライオンです』と答えたそうです。それを聞いた僕は、なんでライオンなのだろう?と不思議に思いました。

開高さんによると、『ライオンという言葉を発明した人がすごい。ライオンと名付ける前は、化け物みたいなヤツで恐ろしい存在だった。それが、ライオンと名付けられて、“恐怖の塊だったライオンから、出会っても逃げれば、もしくは闘えば大丈夫”、という概念に変わった』というのです。漠然とした恐怖が概念として理解できた時、皆が安心した。つまり概念は行動につながる。すなわち言葉は行動につながるのです」

人の思いを受け取って言葉にすること、言葉に矢印をつけて行動につなげること。それがコピーライティングだ、と説く阿部さん。さらに、同じ物でも名前を変えるだけで、意識が変わるという話もされました。

レストランオーナーのヒミ*オカジマさんの話も紹介してくれました。「NYにある日本食レストランで、明太子を『タラのたまご』と直訳したら、現地の人から『生の魚卵を食べるなんて気持ち悪い!』と避けられた。そこで、オカジマさんが新たに明太子に名付けたのは、『ハカタ スパイシー キャビア』。物は変わっていないのに、シャンパンに合わせて乾杯する人があふれたそうです。名称が変わるだけで、意識まで変わってしまうのです」

コピーライティングについて阿部さんは、「つながりたいところ、行ってほしいところにボールを投げるような仕事です。こっちがいいよ、と提案する。すると、見えない線が言葉となって、気持ちがつながる。それがコピーだと思います。僕がコピーってなんだろうと考える時は、今、流行しているものは何?と考えます。言葉は時代と呼吸している。言葉は時代とともに変わっていきます」と語ります。

3つの接続詞で伝わるコピーに

言葉は、矢印の役目をする、と語る阿部さん。では、伝わるコピーはどう書けばいいのでしょうか。

「物事は受け取り方によってネガティブにもポジティブにも変換できる。相手に自分の気持ちが伝わるようにするには、自分が考える言葉で本質を探らないと、人の心は動かせない。ただ『好きだ、好きだ』と言うだけでは押し付けで、本当の言葉は伝わらない。僕がコピーを考える時に活用するのが、“そもそも・たとえば・つまり”の3つの接続詞です」

そもそも…LOVE(愛)とは?と疑問に持つこと。
たとえば…何?と頭の領域(発想)を広げていく。
つまり…自分がいいと思うことの本質を見つける。





「もし、テーマが『アイドル』だったら。そもそも『アイドルとは?』と疑問を持って問いかける。次に、例えば『アイドルとは何?』と考えてみる。

ここで枕詞にとらわれないこと。既成概念を取り払って、頭の領域を広げていく。歌って踊れるのがアイドル? アイドルは可愛い? いや、アイドルの領域はもっと広い。歌って踊れて可愛いだけじゃない。そういえば、街の商店街にもアイドル的存在っていたな、看板娘も? 高校の時の人気者もアイドルだ! 頭の領域を広げるコツは思い出すこと。こんなことがあったな、こんなシーンがあったなという
経験を探し出して、連想しながら発想を広げていく

そして、つまり『アイドル→〇〇』と矢印をつける。
自信を持って恥ずかしがらず、言葉で行くべき方向を指示します

つまらないこともポジティブな捉え方にすると面白くなる。過去には戻れないけれど、受け取り方は変えられる、と阿部さんは説明します。どうすれば伝わるか?を考え続けると、その思いが矢印となり、近くにいる人と「あるある、そうそう」と共感がうまれる。コピーを書くということは、繰り返し繰り返し考え抜く作業なのです。

あなたにとってのI LOVE YOUって?

コピーとは? 言葉とは? 企画とは? 阿部さんからの熱い講義を受けた学生たち。ここからは、自分でコピーをつくるワークショップの時間へ。

私とは何か? 愛とは何か? あなたとは何か? 3つの接続詞を使いながら思いを巡らす学生たち。「とにかく自分の経験を思い出し、想像を広げていくと、そのなかにひらめきがきっとある」とアドバイスする阿部さん。ノートに思い付く言葉をたくさん書き出す人。じーっと一点を見つめて考え込む人。こう言ったら響くかな、相手に本質が伝わるかなと、真剣に課題と向き合っています。





限られた時間のなかで言葉を紡ぎ出す学生たち。提出されたコピーのなかから学生自らが投票し、票が集まった上位4つ。それぞれに対する阿部さんのコメントを交えて紹介します。






『新しい服、買ったんだ』…「当たり前のことだけど、一番大事な人に最初に伝えたい気持ちが伝わります」

『私の全てをあげます あなたの全てはいりません』…「自分の時間を相手に与えることを無駄だと思わないのが、愛と捉えたんですね」

『自分よりも幸せになってください。』…「相手の幸せを願うこと、心にある強くて献身的な思いを感じます」

『世界への肯定』…「実は否定されてしまうことの方が多いのかもしれない世の中で、自分がいる世界を肯定することが愛だという、視点を感じます」



「まずは、自分が伝えたいことを丁寧に書き出してあげることが大切。書き方一つとっても、縦書き、横書き、カッコ付けなど、見せ方を模索してみてほしいんです。そして、選ばれていたもの、自分がいいなと思ったものは何が良かったのかを考える。新刊『コピーライターじゃなくても知っておきたい 心をつかむ超言葉術』にも書いていますが、自分にとって伝えたいことは、皆が求めているのかなと、自分の物差しで考えてみてください」と阿部さんから講評もありました。

生活の中で「なぜ?」を大事に

■阿部さんの TAKURAMI ポイント

生活の中で常にアンテナを立てて、疑問「なぜ?」を大事にしているという阿部さん。物事を考える時は、カメラのピントを引いたり寄ったりするように、見方を変化させているそうです。また、一つの字のなかにも、そこにさまざまな意味があり、成り立ちがあり、隠されている本質があるのだとか。

「企むという字は、人がつま先立ちをして遠くを見ている形象だと言われます。そう考えると、自分の進路、明日のご飯、先にある生活のすべてが企みです。日常の中の企みを一つひとつ大事にすることで、自分が目指しているところに行けるはず。そして、一人ひとりが言葉の矢印を持って『伝わるかな?』と考え続けること。それが企画であり企みなのだと思います」

どうしたら伝わるかな、と言葉に疑問を持って考えて続ける。そこから、世の中との一体感や共感につながる。考え続けることは、決して簡単ではありません。ですが、やろうと思えば誰もが今からできることです。ぜひ皆さんも試してみてください。

実験的にスタートした授業。「コトバのTAKURAMI」をテーマに、常に言葉と向き合いながら仕事をしている阿部さんの企みをお届けしました。今後もさまざまな業界で活躍されている方をゲスト講師にお招きして、その方が企んできたお仕事を紐解き、実践的に企むことの楽しさを学生の皆さんと共有したいと思います。マスナビではクリエイティブにものごとを捉える視点と、人生を企む楽しさを伝えていきます。次回もどうぞご期待ください。



■終了後の学生からの声10選

・勉強になりました。サークルでは実際に広告をつくることもあり、コピーは特に悩むことも多いです。思いつきで出すことも多かったので、内容と伝えたいことをより深く考えだしたことがなかったです。どう考えていけばいいかを知ることができて実際に活用しながら取り組んでいこうと思いました。

・ことばの扱いというものは本当に難しくて面白いと感じます。名付けるという行為の大切さもありますが、例えば「椅子」ひとつとっても、どんなものを椅子と定義するのかも同時に考えられると思います。脚があって背もたれがあるものが椅子? いやでも箱みたいなものも座れたら椅子? 座れるものは椅子ってしたらいいのかな? でも駅とかにある腰掛けられる花壇は椅子じゃないし…と考えあぐねてしまいます。でも皆、椅子をわかっている。言葉って不思議で面白いですね。

・いつものような日常を過ごしていたら考えることがほとんどないであろうコピーや言葉の本質について色々考えることができてとても充実感がありました。普段から無意識のうちに言葉選びをしていると思いますが今まで以上に無意識にも意識的にも言葉選びをしてしまいそうだなと良い意味で思いました。

・リアルな生の声を直接聞けて、取り入れるところや自分に足りないことも見つかり実際に取り組むことも定まった。ワークショップで実際に取り組むことで他人が思っていることや考え方も知れて、オープンな空間で取り組めてよかった。

・広告というのはすごく身近でありえないほど遠い気がしています。それは今でも同じですが、距離が近く感じました。

・楽しく学ばせていただけてとても勉強になりました。今後の生き方や過ごし方の参考にしたいと思います。

・「I love you」のいろいろな表現を知ることができて面白かったです。コピーとは何かという問いだけでなく、いろいろな物事について本質を考えていきたいと思いました。

・参加型の講演会でとても勉強になりました。ありがとうございました。本買います!

・とてもよかったです。自分は就活に不安を抱えており将来やりたいことも決まっていなかったのですが、そのヒントを得ることができた気がします。

・考え方を学んで、実践する流れが大変わかりやすかった。まわりの人達のコピーをたくさん見ることができたのも面白かった。


※新型コロナウイルスが蔓延する前の2020年1月に実施されたイベントを後日レポートとして掲載しております

■講師プロフィール
電通 コピーライター/プロデューサー 阿部広太郎氏

2008年、電通入社。人事局に配属されるも、クリエーティブ試験を突破し、入社2年目からコピーライターとして活動を開始。自らの仕事を「言葉の企画」と定義し、映画、テレビ、音楽、イベントなど、エンタメ領域からソーシャル領域まで越境しながら取り組んでいる。映画『アイスと雨音』『君が君で君だ』プロデューサー。パーソナリティーを務めるラジオ番組「#好きに就活 『好き』に進もう羅針盤ラジオ」がAuDeeで放送中。2015年より、BUKATSUDO講座「企画でメシを食っていく」を主宰。最新の著書は『それ、勝手な決めつけかもよ?だれかの正解にしばられない「解釈」の練習』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。