「ふわっとしたまま進むってことも大事」“好き”を潰さず自分の小さな軸を大切に/電通 高橋鴻介さん

「ふわっとしたまま進むってことも大事」“好き”を潰さず自分の小さな軸を大切に/電通 高橋鴻介さん

コミュニケーションデザイナー(発明家)という肩書で、新しい点字を開発。新しいアイデアやコンセプトを考えながら、どんなデザインにすれば社会的課題を解決できるのかを探る日々。若手クリエイターとして一躍脚光を浴びている電通の高橋鴻介さんに、「新しい社会の捉え方を新しいスタンダードに」という思いで取り組む仕事についてお聞きしました。

写真:高橋鴻介さん
高橋鴻介さん株式会社電通
1993年12月生まれ。東京都出身。慶應義塾大学環境情報学部卒。企業でプランナーとして働くかたわら、発明家としても活動中。プロダクトデザインを主な活動領域とし、ペットボトルのキャップ部分をネジとして再活用するプロジェクト「CAPNUT」や、墨字と点字を重ね合わせた書体「Braille Neue(ブレイルノイエ)」など、日常に浸透した文脈を応用し「あたらしい普通」となるデザインを模索している。
【 目次 】
社会との接点を探すなかで「Braille Neue」を開発
社会を広告の視点から考えるのが面白い
学生時代に「心を動かしワクワクする楽しさ」が芽生えた
「デザインって何のためにある?」を考える中で広告業界を志望
新しいコンセプトを世の中に表明していきたい
新しい社会の見方、新しい普通をつくりたい

社会との接点を探すなかで「Braille Neue」を開発

──第6回JAAA若手大賞受賞(編集部注、一般社団法人日本広告業協会が主催する広告業界の若手が選ぶコミュニケーション大賞)おめでとうございます。高橋さんが開発された新しい点字「Braille Neue(ブレイルノイエ)」を拝見しました。開発のきっかけを教えてください。

ありがとうございます。点字開発のきっかけは、ある施設に訪問した際に点字を発見し「これは面白い。どうしたら読めるようになるのかな?」と思ったことがきっかけです。視覚障がい者とのコミュニケーションは、まず文字の壁があります。そこから社会になにが必要かを考え、プロジェクトを進めていきました。


──着眼点からの展開が素晴らしいですね。以前から社会課題を意識されていましたか?

大学時代に取り組んでいた課題が、社会課題に紐付いていることが多かったので、その影響が大きいのかもしれません。僕がデザインをするときは、ゆるく社会的な接点を捉えるようにしています。これは、企画を提案する際にも意識している点です。


ただ…社会貢献をしたいというのが軸ではなく、わりと好奇心ベースです。たとえば「英語が通じれば楽しいはずなのに…」という思いがあれば言葉のバリアをなくしたい。妄想みたいに、自由にアイデアを考えています(笑)。

社会を広告の視点から考えるのが面白い

──今のお仕事について教えてください。

「コミュニケーションデザイナー(発明家)」として、 マスメディア(新聞、雑誌等)以外のデジタル部門の企画を担当しています。展示会での体験設計やロボット製作をはじめ、飲料や化粧品などのコピーライティングまで幅広く取り組んでいます。


──プロジェクトはどのように進めるのですか?

ふわっとした課題をクライアントさんからいただき、一緒に考えながらそれに応じて日々のプロジェクトを進めています。例えば「未来の車って、どういう形だと思いますか?」といった課題が多いです。僕たちの仕事は、企画(アイデア)の軸(コンセプト)をつくることです。だから幅広い課題に対して、幅広くアウトプットできて面白いです。


──日々のアイデア出しについて教えてください。

会社の先輩から教えてもらった「1日1個アイデアを書き留める」という習慣が身についています。僕がしんどかった時期に「なにかあったらその場ですぐ相談してくれればいいよ。それよりなにか面白いことに時間を使おうぜ。つらいときは自分の好きなアイデアを考えて息抜きしてみて」と先輩は助言してくれて、本当に救われました。


新しい点字の開発も、この習慣が身についていたからこそ成功につながったと思っています。いわば「息抜き発明」です。自分の好きなところを突き詰めた先になにかあるのものだなと。


──アイデアを気軽にシェアできる環境も良いですね。

うちの会社が独特なのかもしれないですが、企画会議に全然関係のないおまけ要素のアイデアを持っていったりもします。気軽にアイデアを持ち寄る社風が定着している良い環境だと感じています。

学生時代に「心を動かしワクワクする楽しさ」が芽生えた

──学生時代から企画や開発をされてきたのですか?

高校時代はエンジニアリングを学んでいました。手でモノをつくるのが好きだったので、ロボット製作やグラフィックデザイン、動画などもつくっていました。あるとき、情報の授業でテレビCMをつくる機会があり、進めるうちに「人をワクワクさせるって面白い!」という思いが芽生えていることに気が付きました。それがきっかけで、大学ではデザインを学びたいと思うようになりました。


──大学ではデザインを専攻されていたのでしょうか?

大学時代は研究室に入り、先輩のもとでロボット開発のプロジェクトに携わっていたこともありました。一方で、アカペラサークルにも所属。当時ハモネプブームで、音楽活動をしながら舞台のパンフレット制作などグラフィックデザインや、空間デザインにも取り組んでいました。さまざまなモノづくりを経験するなかで、「つくることも好きだけど、つくる指標となるモノ(コンセプト)を探すのが好き」と気付いたターニングポイントでした。

「デザインって何のためにある?」を考える中で広告業界を志望

──学生時代に「コンセプト探しが好き」と気付けたのは大きな出来事でしたね。

そうですね。個人的に装飾が多いデザインはあまり好きではなくて…。「デザインってなんのためにある?」という明確な理由が、あるのとないのとではまったく違う。


大学2年生の頃、日本を代表するクリエイティブディレクターの佐藤可士和さんの授業に出席したんです。防災がテーマの13回しかない授業で、毎回ずっとコンセプトづくり。「いつになったらモノづくりができるんだ?」と思っていたのですが、10回目で「あ、いいんじゃない」と、やっと言ってもらえました。そこからはもう、あっという間にモノづくりが進みました。「完成したときに一言でスッと伝わる。これがコンセプトなのか!」とハッとさせられました。しっかりと軸(コンセプト)がつくれると、モノづくりもスムーズに進むんです。自分のデザインが見えた気がしました。


──そこで、広告業界を目指そうと?

大学でプロダクトやグラフィックのデザインをやっていたので、当初はメーカーのデザイナーになろうと思っていました。ただ、メーカーだと出口が決まっていて、あまりしっくりこなかったんです。その環境でモノづくりするのは、僕のやりたいイメージとは違うなと。


広告業界はアウトプットが多岐に渡ってできる。社会との接点が多い業界だと感じ、徐々に就活の方向性が見えてきました。

新しいコンセプトを世の中に表明していきたい

──入社後、いろいろと経験されてどういったことが面白いと感じますか?

広告はただ物を売るためではなく、企業のブランドイメージや社会的課題に気付いて、しっかりとバランスを考えるところが面白いです。特に僕の部署は出口が決まっていないアウトプットが真正面から提案できるので楽しいです。就活時期はデザイナーになりたかったので悩みましたが、社会へ発する視点をもつデザインが好きだったのでいまは幸せです。


──いままでのお仕事で一番心に残っているプロジェクトを教えてください。

会社の先輩がやっている“ゆるスポーツ”というプロジェクトを一緒にやったことですね。「スポーツの苦手な人と得意な人が対等に戦えるあたらしいスポーツをつくろう」というコンセプトのプロジェクトで、同期と一緒に「くつしたまいれ」というくつ下を丸めて玉入れをするお手伝いスポーツをつくりました。


このスポーツが面白いのは、探すのは子どもが早く、たたむのは大人が早いということ。大人と子どもが対等に戦えるんです。ルールを変えると壁がなくなることを学び、共感も得られました。

新しい社会の見方、新しい普通をつくりたい

──今後のビジョンを教えてください。

まずはいまのプロジェクトを継続していきたいです。2020年に東京オリンピックを控え、世界の方々に点字のプロジェクトも見てもらえる機会です。今後も一層頑張っていきたいですね。


長期的ビジョンとしては、僕は「新しい社会の見方」をつくりたいんです。「新しい普通」かもしれません。例えば、フォークのような誰がつくったかわからないモノだけど、生活が豊かになるモノです。いつか自分で「世の中を前に進めていく新しい普通」を発明して、何十年先にも残していけたらいいなと思っています。


──可能性は無限ですね。

大きい夢を持っていたほうがいいですよね。


ガチガチに軸を持っているより、ゆるい軸でふわっとしてたほうが自由に飛べる気がします。可能性を広げていれば、方向性は次第に定まってくるものかなと。


──好きなことが見つからない、周りからの意見や批判で一歩踏み込めない学生へ一言をお願いします。

人と違うから発言しにくいことってけっこうありますよね。でもそれはとても重要で、人と違うところを押し出すほうが強みになる。弱みは強みとして、自分なりのルールや方法を考えるといいかもしれません。例えば、いまからサッカー選手になりたかったとしても無謀ですが、新しいサッカーのやり方を考えるのは近道かもしれません。努力する方向をどうやって転換するか。周りからの批判も“新しい発見”と受け取って、もっと楽観的に考えて良い。他の人と違うのはそれだけで価値。「バカにされて、笑ってもらえるくらいが、キャッチーでいい」と僕は思っています。


──最後にメッセージをお願いします。

「集団」から「個」へ、世の中の風潮が変わりつつありますが、僕は企業に所属してよかったと感じます。うちの会社はプロジェクトベースでメンバーが変わるので、人との関わりが多く、それぞれの仕事の進め方や視点の違いなどがあり、新しい発見や刺激があるのは大きいです。他人を知らないとわからないこともたくさんあります。“働き方のロールモデルを探す”ことで、色んな人と触れ合って、「ここら辺かな?」と自分が進む道が見えてきます。


でも、新入社員時代は“好き”なのに、仕事につながらないギャップを感じました。周りに合わせないとうまくいかないこともありますが、バランスをとりながら自分の軸はしっかりと持っておくのも大切です。そうこうしているうちに、“好き”を仕事に転換する方法が見えて楽観的に取り組めるようになります。


“好き”を潰さず、自分の小さな軸をたくさん持つのは重要です。小さい軸に気付いて、どういう共通点があるのかな?とゆるい軸を探していけば、きっと“好き”がつながっていくのではないでしょうか。

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