本を書いているかどうかは僕にとって大きな試金石。 そのジャーナリストとしてモチベーションがどこにあるか?です/フリージャーナリスト 横田増生さん

本を書いているかどうかは僕にとって大きな試金石。 そのジャーナリストとしてモチベーションがどこにあるか?です/フリージャーナリスト 横田増生さん

マスナビ業界研究セミナー特別講座として、9月24日にフリーランスのジャーナリストとして活躍中の横田増生さんをお招きしてトークイベント&レクチャーをしていただきました。

フリーとなる前は業界新聞の記者、デスクも経験されてきた横田さんは、流通システムや経済動向を読み取るスキルが卓越されています。現在は「潜入取材」という体当たりの独自スタイルで真摯に取材を重ねる横田さんから、たくさんの経験談をお話していただきました。

質疑応答も活発に交わした全120分のイベント終了後、記者となるまでどんな勉強が必要か?また、記者になる人の素養とは?など改めてお話を伺いました。

写真:横田増生さん
横田増生さんフリージャーナリスト
1965年福岡県生まれ。関西学院大学を卒業後、予備校講師を経て、アメリカ・アイオワ大学ジャーナリズム学部で修士号を取得。
93年に帰国後、物流業界紙『輸送経済』の記者、編集長を務める。99年よりフリーランスとして活躍。主な著書に『潜入ルポ アマゾン・ドット・コム』『仁義なき宅配』『ユニクロ潜入一年』『評伝 ナンシー関』など多数。最新刊は「潜入ルポamazon帝国」。
【 目次 】
自由を得るために本当のことを書く。 制約のある記事は嘘になってしまう。
本を書いているかどうかは僕にとって大きな試金石。 そのジャーナリストとしてモチベーションがどこにあるか?です。
不在宅へのamazonの「置き配」はいずれ問題が生じる。 断固として拒む、40年間ハンコをもらい続けてきたヤマトの知恵。
Amazonは正当な税金を支払っているだろうか? 日本では僕くらいしか批判していない。
本は職人芸。新聞は一筆書きの一発勝負。 技術を磨くために、いい映画やいい本を読んで。
★一筆御礼★

自由を得るために本当のことを書く。 制約のある記事は嘘になってしまう。

横田氏のリアルな取材体験談に、学生たちは熱心に聞き入った。

――熱い120分をありがとうございました。まずイベントの感想を。

参加された学生のみなさんは、熱心に聞いてくださってよかったです。時折、頼まれて大学などで講演をしますが、聞いている人の興味のあり方によりけり。今日の参加者の方々は、自分のやりたいことに的を絞れていてやる気もあり、役立つ話がどこにあるか? と真剣に2時間聞いていましたね。


――新聞記者、ジャーナリストに興味がある学生が参加していたので、かなり一般の学生よりモチベーションも高かったです。横田さんの就活時代はセミナーなどに参加しましたか?

就活生のときは、新聞社主催のセミナーにいくつか参加した記憶があります。でも何の話をされたかはほとんど覚えていない。現役で活躍する記者が登壇しても、みんな概してお行儀良いから、大したことは何も言わないです。オフレコだと、たとえば北海道新聞が北海道警察の贈収賄事件を突っ込んで書くとどうなるのか? とか、または、中日新聞が、どこまで地元に本社を置くトヨタ自動車のネガティブな記事を書くことはできるのか、など具体例があるとわかりやすいでしょう? 


そうしたタブーにあたって止まってしまう人、管理職になって口を閉ざす人、人それぞれです。もしかしたら、しがらみの少ないフリーのジャーナリストのほうが、業界のいろいろな側面を話しやすいのかもしれませんね。


――新聞記者を経て、フリーとして信用されるまでは地道な努力が必要ですよね。

最初の本を何冊か書いて、バックアップしてくれる出版社が付くかどうかでしょうね。本を書いているときは、読者に向かって書いているのと、編集者に向けて書いているのと2つの気持ちがあるんです。こんないい本が書けますよ!というパフォーマンス。雑誌の記事もそうです。


数年前、僕にとって大切なテーマである睡眠に関する週刊誌の記事を書いたことがあって、これを読んだ編集者から『本を書きませんか?』と言われないかなぁ……と下心を抱いていたら、2社から広告の声が掛かりました。1社は「睡眠がよくなる家」、もう一つは枕などのよく眠れる寝具の記事広告に出てくれないか、という話でした。でも記事広告は何でも書いていいわけではなく制約が多いし……。原稿料がいくらなのかも訊かずにお断りしました(笑)。


――通販カタログなんかではジャーナリストや作家、音楽家など著名人が「これすごくいい!」ってオススメする記事広告はよく目にしますよね。

自分が本当に薦めたいモノならいいんですが、書いてほしいと依頼されて書くと、悪いこと書けませんから(笑)。それはちょっと辛いかな。カメラマンで作家でもある藤原新也さんが以前書いていましたが、ビールなどの広告に出ている書き手は顔が貧相になる……って。


――えー!広告をずっとやってきた私としては、それはちょっと悲しくなりますが。

好きなモノならいいんですけど、僕なんかビールあまり飲まないし。今は、飲むアルコールと言えば、キリン本搾りという缶チューハイが中心。広告で飲んで、マズイ! と言えるのは青汁くらいですよ(笑)。嘘はつけない。自由を得るために本当のことを書かないと、次は自由に書かせてもらえないですから。


僕はいろんな編集者と付き合ってきたので、どんな要求にも応えられるつもりでいます。本になると書き手の自由度も高い。ところが雑誌だと署名記事であっても、雑誌独自のカラーや編集部の意向もあるので、本ほどの自由度はない。

本を書いているかどうかは僕にとって大きな試金石。 そのジャーナリストとしてモチベーションがどこにあるか?です。

斬り込む姿勢は骨太だが、お話しされる雰囲気はマイルドで、所々ユーモアが挟み込まれる。

――amazon、ユニクロ、ヤマト運輸といずれもネタを見つけて潜入する独自の取材方法は横田さんならではです。本以外のメディア、テレビやラジオから出演のオファーはありませんか?

テレビは制限が多いと感じますね。以前、長年続く討論バラエティー番組に、宅配便に関してコメントしてほしいと出演依頼があった時は、社名は一切出さずに話してほしいというのでアマゾンをA社、ヤマト運輸をY社というようにイニシャルで話したら、それもふざけているからだめってことになったことがありました。一方、MXテレビでは生番組で自由に発言できた。


けれど、番組によっては、僕の本を読まずに打ち合わせにくることもあり、テレビ番組の制作現場は、勉強不足という感じがどうしても拭えません。テレビはどこまで本気でニュースをやっているのか、門外漢の僕にはよくわからない。


テレビで流すニュースは、掘り下げ方が浅いと感じることもありました。在阪のテレビ局の夕方のニュース番組に呼ばれたときのことです。ヤマト運輸の巨額の未払い残業代の問題について話してほしい、という依頼でした。しかし、ヤマト運輸に気を遣っているのか? と思うほど弱腰にみえました。


事前に関連事項を教えてください、と聞かれたので、問題の発端となった労働争議でヤマトが負けたことを何度も伝えたんです。でも実際、ニュースで使われたのは、なぜだか佐川急便のドライバーが荷物を蹴飛ばしている映像でした。それは問題の本質からずれています。


また、すでに企業自体が公表している経営に関する数字をテレビで使うとき、企業の広報部門に、その数字を使っていいのかを確認する、という場面にも遭遇しました。石橋を叩いて割っているような。テレビ番組には、僕自身はあまり関心ないです。また、テレビはオーバージェスチャーでないと、テレビ映えしないんです。


そうしたテレビの住人を、間近で見るとバカみたいと思っても、映像になるとそれが映える。それは、僕には到底できない芸当です。僕は活字、それも書籍で発信します。ジャーナリストとして本を書いているかどうかは僕にとって大きな試金石。ジャーナリストの力量が問われます。テーマを持っているか? 物語れているか? です。さらには、その人のモチベーションがどこにあるか? です。

不在宅へのamazonの「置き配」はいずれ問題が生じる。 断固として拒む、40年間ハンコをもらい続けてきたヤマトの知恵。

90分の白熱トークでは、これまでの取材体験が凝縮されたお話を伺えた。

――今後のテーマは、決まっていますか?

時事ネタではない経済ネタを書くつもりです。まだオフレコですけれど。

いつも本を書くときは、訴えられてもいいようにメモを残しています。本には、出典が1000くらい付いています。


――本の読み方が受験生の参考書みたいに、何度も文章チェックをされている様子から尋常ではない熱意を感じます。amazonはもう本屋だけでなくEverything Storeとして他を駆逐していくのでしょうか。

いくでしょう。でも50年、100年と繁栄を続ける企業は存在しない。個人情報データをあまりにも持ちすぎているので、amazonもGoogleを含むGAFAを解体すべきだという話が、アメリカ大統領選挙の争点にもなっています。マイクロソフトも解体する・解体しないが争点になって結局解体しませんでしたが、90年あたりに勢いを削がれています。


GAFAの中でも、FacebookやAppleには以前の勢いがなくなってきている。対して、Googleはこの10年で大きく変化しています。僕が先日ドイツやポーランドを旅した時、Google Mapの精度が高くてびっくりしました。Googleは無料で提供しているけれど、どこかに情報を売らないとお金にならない。投資できませんものね。無料で提供しているサービスの利益をどこであげてるか? です。


――どうやってその企業が利益を上げているか? 仕事が回っているのか? という疑問がすべての出発点なのでしょうか。

儲からないと事業として成り立たないし、決算にも表れない。その辺は業界紙記者時代に身につけてきた見方です。Googleやamazonも便利だけれど仕掛けが知りたい。投資のお金はどこから出てるか? でしょう。


――私もプライム会員なのでamazonに知らぬ間に買い物依存している点は否めない。便利であることで何か大切なものを失っているような気もして、横田さんの書籍を読んで怖くなりました。

僕もプライム会員でamazonを使っています。本を取材し始めた2017年は1年で70回ほど注文し20万ほど買っています。先日、風邪ひいて寝込んだ時も無料でamazon primeの映画をずっと見ていました。おもしろかったのは「かもめ食堂」、それと「犯罪家族」、「クラッシュ」――でした。ただ、少なくともamazonの負の側面を十分に知った上で買うようにしたい。便利さの裏側には何があるのかを知ることが必要だと思うんです。


――宅配業者の時間指定をすることによっていろいろ歪みをうんでいて、ドライバーの仕事を増やしていると思うし。

時間指定を外すだけでも、ドライバーの負担は軽減します。幸い、うちには宅配ボックスがあるので、不在個数は年間70個で1個か2個代引きの場合はありますが、不在で持ち戻りというのはほとんどないです。


――うちは宅配ボックスがないので、メーターボックスに入れていいですか?と最近になって聞かれて、もちろんいいですよ、ということにしましたが……。

「置き配」ですね。amazonが最近になって始めましたが、ヤマトはまだNO!としています。今のamazonのデリバリープロバイダの低い実力で「置き配」をはじめると、必ず問題が発生するでしょう。盗難とか、遭ってなくても盗難に遭ったというような詐欺行為というようなこと。


そういうリスクがあるから40年近く、荷物を届けてハンコをもらってきた長年の知恵でヤマトはやらない。amazonの「置き配」は、置いた・置かないで、デリバリープロバイダはいずれ問題が生じるでしょう。ちゃんと「置き配」しても、相手が受け取っていないといったらおしまいです。

Amazonは正当な税金を支払っているだろうか? 日本では僕くらいしか批判していない。

もっと大手メディアもamazonのような企業に突っ込んでほしい、と語る横田さん。

――便利になるというのは、自分もリスクを背負わないとならないということでしょうか。

amazonによって国内の経済も絡まってきていますよね。


AWSというクラウドになるとアレクサとか、うちにもありますが、どうもうまくなくて。「NHKニュースをかけて」といっても、いつもなんだかパッとしない。ちょっと込み入ったことをお願いすると、「それについては考えさせてください」とか答えるし。


――うちのアレクサも!ダメダメです。「わかりません」とか言いますよ。

amazonの社員が、アレクサへのメッセージを聞いてタグをつけている……というニュースもありますね。聞いている人がいるという話がニュースになっていました。アメリカのネットメディアのニュース発信です。それもプライバシー上どうなんだろうか。要注意です。


――AIが新聞の見出しをつける事例も出てきていますが、人が作らなくてもいいものも確かにありますよね。

しかし、それは新聞に限りますね。雑誌記事だと長いから見出しは付けられません。本の見出しも100通りありますから付けられない。短いもなら書けるかな? という事例です。まあ使えるところは使えばいいと思いますね。amazonは税金払えよ、という論点もあります。


――なるほど。大企業の税金問題はありますね。労働者は苦しんでいる一方で。

アメリカも、ヨーロッパも、そういう点は批判をしています。でも日本は誰も批判していない。僕くらいじゃないですか? もっとこういう話を大手メディアが取り上げてほしいんですけどね。


本は職人芸。新聞は一筆書きの一発勝負。 技術を磨くために、いい映画やいい本を読んで。

amazon、UNIQLOと時代の先端をいく企業に斬り込む姿勢は圧倒される。

――新刊は衝撃的な事実もありましたが、こだわった部分はどんなところですか?

文章として読みやすい、構成としても読みやすいものを。今回の工夫の一つとしては、数字が多く出てくるので、数字の表記については日本経済新聞の書き方を踏襲してみました。漢数字ではなく、算用数字を使う。何度も読み返したい本というのは、何度も使いたくなる食器のようなもの。書いているといい言葉が浮かんでくる。それは付箋に書いて貼っておいて、あとから入れ込みました。いいいいフレーズが要所要所で入っていると、読みやすくなる。


――そうした創意工夫があって何度も読み返したくなる本ができるのですね。では最後に、ジャーナリストや新聞記者を目指す学生が、今どんな勉強をすればいいかアドバイスをお願いします。

出来るだけ、たくさん本を読むことですね。写真家を目指すなら、いい写真をたくさん見るようにする、映画監督を目指すなら、いい映画をたくさん見る。いい文章を書きたいのなら、本をたくさん読んでおくことをお勧めします。本を読んでいれば、必ずいい文章が書けるわけではありません。


しかし、本をほとんど読んでいない人は、いい文章を書くのに大変苦労します。さらに、職業として文章を書きはじめると、本を含む他人の文章を読む視線がおのずと変わってきて、多くのことを吸収できるようになります。


その先にある本を書くというのは職人芸のようなもの。新聞は一筆書きの一発勝負。校正しても2,3回。本は、いいお皿、陶器のイメージです。いいコーヒーカップはいつでも使いたくなる。そのために技術を磨くためにいい映画やいい小説を読んでおくことかな。新聞と違い、事実を羅列しただけで300ページの本を書いても、読者はなかなか読んでくれない。本を書く場合、書き手に物語として伝える技量が必要になってきます。

★一筆御礼★

横田増生さんとは10年以上前からおつながりを頂いてまいりました。取り上げるテーマが常にタイムリーで関心大。斬り込み方がこれぞジャーナリズム!という姿勢で、広告の仕事に長く携わっている私としてはシビレルものばかり。物事には両面がある。


だからこそまるっと信じてしまうのではなく、自分の判断すら疑いをもって考えて、物事を選ぶべきなのでしょう。Amazonの裏側を知ることで、ネット購入の便利さで失っていることがあるのではないか?改めて感じました。これからのテーマも楽しみです!増生さん、応援しています。

(2019年9月取材・マザールあべみちこ/撮影・楠聖子)

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