子どもの頃から好きなものをたどって見つけた「CMプランナー」という仕事。理想と現実のギャップに悩みながら進んできた/電通 佐藤雄介さん(後編)

子どもの頃から好きなものをたどって見つけた「CMプランナー」という仕事。理想と現実のギャップに悩みながら進んできた/電通 佐藤雄介さん(後編)

「アオハルかよ。」でおなじみの、日清カップヌードルのCMをてがける電通のCMプランナー、佐藤雄介さん。

10代に向けたCMとしてYouTubeなどで繰り返し見てもらうことを想定した仕掛けをいくつも施しているそうです。しかし、Web上で話題になるとどうしても「炎上」のリスクが伴います。

誰でも気軽に意見が発信できるようになった今、佐藤さんは一体何を意識しながら世の中にクリエイティブを発信しているのでしょうか。後編では、佐藤さんのクリエイティブに対する向き合い方をお伺いしました。

写真:佐藤雄介さん
佐藤雄介さん株式会社電通 
CMプランナー/クリエーティブ・ディレクター

1984年生まれ。2007年に電通へ入社し、2008年よりクリエーティブ局に配属。2017年に史上最年少でクリエイター・オブ・ザ・イヤーを受賞。最近の主な仕事に、カップヌードル「HUNGRY DAYSアオハルかよ」、ドコモ「星プロ」、ギャツビー「GATSBY COP なんだ有能か」、ポカリスエット「ガチダンス」、マルコメ「世界初かわいい味噌汁」「DJ MARUKOMEプロジェクト」など。

2013年カンヌ広告祭ヤングカンヌ「フィルム部門」にて日本人初のメダリスト。ACC賞、ADC賞、TCC賞、TCC新人賞、ギャラクシー賞など受賞。

【 目次 】
広告の宿命は「人を不快にしてはいけない」。だからこそ、表現には徹底的にこだわる。
発生したネガティブはできる限りポジティブに変換しています。
熱量が透けて見えるもの=狂気を感じるものをつくりたい。
学生の皆さんにはとにかく好きなもの、興味のあるものを大事にしてほしい。

広告の宿命は「人を不快にしてはいけない」。だからこそ、表現には徹底的にこだわる。

前編はこちらから


――最近Web上で話題になると、「炎上」とかのリスクもついてきますよね。

炎上に関してはものすごく気をつけています。マス広告だけじゃなくて、Web上でも話題化をはかると表現に対する賛否両論は当然ありますし、賛成意見だけでは話題にならないのでその線引が難しいところですよね。ですが、原則として広告は人を不快にしてはいけません。これは、広告が背負っている宿命です。


どれだけ一生懸命広告をつくったとしても、それがクライアントのブランドを著しく傷つけてしまってはバッドエンドです。広告をまかせてもらってる責任上、ブランドを傷つけてしまうようなことはしたくないので、ものすごく気をつけています。周りからはすごく細かいと言われますし、自分でも、うるさいほうだな、と思っています。


――気をつけているからこそ仕事が細かくなるし、こだわりもあるのですね。

仕事をスマートにしようと思えばきっとできるんです。でも、クリエイティブという表現に関わっているからには手間暇かけたほうがいいんじゃないかと僕は思います。「炎上しないようにしよう」とか、「ブランドを傷つけないようにしよう」というリスクヘッジはもちろんですが、「こうしたらもっとおもしろいんじゃないか」とか「もっとよくなるんじゃないか」みたいなことは、やっぱりいつも考えています。

発生したネガティブはできる限りポジティブに変換しています。

――でも、そこまでこだわりを持って仕事をしているとストレスに感じることもあるんじゃないですか?

なるべくストレスは溜めたくないので、「めんどくさい」とか「しんどい」って思わないようにしています。ストレスって溜めようと思えばいくらでも溜められるんです。特に広告の現場は常にいろんなことが降り注いできますから、問題が起こり続けることは想定内なんです。目の前の問題を解決したと思ったら、ぜんぜん違うところでまた問題が発生して…、といった感じで。


それをいちいちストレスだと感じていたら自分も、チームの士気も下がってしまうので、可能な限りネガティブに反応しないようにしています。たとえば、発生したネガティブを逆手に取って、逆に良くなる可能性を考えます。「この様子なら締切が延びるから、もっといいものがつくれるかも」って思ったり。しんどいと思うことはなるべくポジティブに転換するようにしています。

熱量が透けて見えるもの=狂気を感じるものをつくりたい。

――今後、佐藤さんが仕事の中で成し遂げたいことはなんですか?

狂気を感じるものをつくりたいと思っているんです。CMでいえば「たった30秒の尺でよくこれをつくったな」と見た人に思われるようなもの。たとえば、『シン・ゴジラ』って映画があるじゃないですか。あの映画1本に詰め込まれている情報量の多さはある種の狂気だと思います。それくらいつくりこみが半端ない。本当に好きな人がつくっているのが伝わってくるんです。昨年ヒットした『カメラを止めるな』も、十数年かけて完結した『アベンジャーズ/エンドゲーム』も、つくり手側の熱意がすごい。内容ももちろんですが、いいものをつくるためにアクセルを全開にしている人たちの姿に感動するんです。


現代は表現物の種類が多いだけに、熱量があるかどうかは作品から透けて見えてくるものだと感じます。結果そのような表現がみんなに愛されて、可愛がられるものになっている気がします。僕も業界の端っこにいる身としては「30秒にここまでこだわるか!」と思われるくらいのものをクライアントさんと一緒に、チームを巻き込みながらつくっていきたいですね。

学生の皆さんにはとにかく好きなもの、興味のあるものを大事にしてほしい。

――今回、この記事を読んでいるのは学生です。佐藤さんが思う、学生時代にやっておいた方がいいことはありますか?

普通に考えたら、「たくさん好きなことをしておこう」につきるのですが、そうですね、仕事に結びつけてもいい「好きなもの」をじっくり探したりするのもいいのではないでしょうか。学生時代より、その先の社会人のほうが長いですからね。


――やはり好きなものを仕事にしたほうが良いのでしょうか?

あくまで僕がそうであっただけなので一概には言えませんが。でも、「好きこそものの上手なれ」ではありませんが、好きなもの・興味があるものを仕事に結びつけている人のほうが面白いとは思います。さっき「今後成し遂げたいことについて」でも話しましたが、つくり手の熱量が伝わるものは人の心を動かします。熱量を生むためには少なくとも自分がそれを好きである必要があります。そして、熱量を持って仕事に取り組んでいれば、結果的に、周りに同じような人が集まって来ると思っています。


――でも、人生を決めていいほど好きなものを見つけるってすごく難しいですよね?

そうですね。僕はたまたま自分の好きなものを早く見つけて仕事に結びつけただけで、そもそも「好きなものを見つけられない」という人も多くいると思います。でも、そういう人も「もう見つかってる」とも思うんです。自分の好きなものって、みんな本当は小学生や中学生のときにすでに見つけているのでは、と。


僕も大学の時、進路について考えた時、小学生の頃に自分のつくったものを人に発表するのが好きだったことを思い出しました。また子どもの時から「短い表現の中にアイデアを感じるもの」が好きでした。それこそMVとかCMとか。子どもの頃からずっと好きなものはきっとあと20年くらいは好きでありつづけられる気がします。あとは、決めの問題です。


就活というタイミングでいろんな世界を見ながら、一度、自分が夢中になれるものを決めてみるのも悪くないと思います。あと「あえて、決めない」という意味では、好きなものがわからないという学生ほど広告業界は向いていると思います。好きなものが何であれ、今は何でも広告の仕事に落とし込むことができるからです。


広告クリエーティブの世界は今、驚くほど自由です。極端な話、映像やCMに興味がなくても全く問題ありません。自分が好きなものを活かした広告表現ができます。僕もCMプランナーですけど、VRホラーとかつくったりもつくったりしてますし。何がやりたいかわからない人こそ、広告業界を研究してみると将来のヒントがあるかもしれませんね。

一覧に戻る