面接官を壁打ち相手に自己分析/映像ディレクター畔柳恵輔の〈クリ活〉

面接官を壁打ち相手に自己分析/映像ディレクター畔柳恵輔の〈クリ活〉

好評発売中の『クリ活2 クリエイターの就活本』から派生して、さまざまな人のクリ活話をお聞きする本企画。今回は、新卒で電通テック(現電通クリエーティブX)に入社したのちに独立し、現在フリーの映像ディレクターとして活躍する畔柳恵輔さんのクリ活。

テレビCMのみならず、ドキュメンタリーやドラマまで活躍の域を広げる畔柳さんに、ディレクター職に求められる素養や、就活時の自分の見つめ方などをお聞きしました。

写真:映像ディレクター 畔柳恵輔さん
映像ディレクター 畔柳恵輔さん
武蔵野美術大学映像学科卒業後、2008年電通テック(現電通クリエーティブX)企画演出部入社。2013年JACリマーカブルディレクターオブザイヤー受賞。2014年電通クリエーティブX退社後、フリーランスの映像ディレクターとして活躍。主な仕事に東海テレビ「堀川、ヤバくない?」、日清チキンラーメン「0秒チキンラーメン」、中国放送(RCC)テレビドラマ『恋より好きじゃ、ダメですか?』等。
【 目次 】
映像制作の道を目指したきっかけは?
どのような作品をつくって就職活動に臨みましたか?
入社後はどのようなキャリアを歩みましたか?
映像ディレクター畔柳恵輔さんの仕事
ディレクターの仕事について教えてください

映像制作の道を目指したきっかけは?

中学校2年生の時に映画監督のクエンティン・タランティーノに出会い、衝撃を受けました。すぐに「俺もつくるぞ!」と映画研究部を発足させて、高校卒業まで映画漬けの日々を送りました。男子校だったので、ヒロインが校内にいない…それならば隣の高校の女の子に出演してもらおう!と必死でお願いしていました。結局20代の社会人女性に出てもらいましたが(笑)。

当時、面白いと感じた映画を、「なぜ面白いと思ったのだろう?」「なにが好きなのだろう?」と考える癖がありました。構造を理解すると、それを自分の手で再現してみる。こうした癖はいまでも続いていて、仕事に活きています。

武蔵野美術大学(以下ムサビ)の映像学科に進学しました。ムサビ出身のCMディレクターで映画やショートフィルムを撮っている方が多くいたので、「ムサビに行ったら、お仕事としての映像がちゃんと学べる」と思ったのです。

どのような作品をつくって就職活動に臨みましたか?

ムサビでの4年間は好き勝手に映像をつくってみて、自分がどういうものが好きなのかを知る期間になりました。特に会話劇が自分のツボで、就活はそうした作品群をポートフォリオにまとめて提出しました。

提出したものの、正直じっくりとは見られていないのではないかと思います。これは持論ですが、試験官が見ているのは、クリエイティブ試験の課題と、その質疑応答を通してのコミュニケーション能力ではないでしょうか。ぼくが入社した電通テック(現電通クリエーティブX)では、当時クリエイティブ試験で提出した課題に対して、先輩ディレクター20人ほどから質問される、なんともドMな面接がありました(笑)。質疑を通じて、「どんな視点を持っているか」「どういう形で自分を伝えようとしているか」が見られる。そういう場では必死に自分をさらけ出すしかありません。面接官は手練なので、自分は手のひらの上で翻弄される。しかし、そうした中で、本当の自分に気づけたので、振り返れば楽しい時間でしたね。

就活当時、ぼくはディレクター職1本に絞ることに不安を抱いていました。だから他にも映画の配給会社や映像制作会社のプロダクションマネージャーなども受けていました。学生の皆さんも自分に合う職種がまだはっきりとわからない不安はあると思います。けれども、ぼくのように就職活動中に企業と向き合いながら、自分をさらけ出して自己分析していけばいい。面接官は壁打ちの相手だと思うぐらいでちょうどいいのです。

入社後はどのようなキャリアを歩みましたか?

入社した電通テックでは、CMを企画演出する仕事につきました。先輩ディレクターについて修行したり、電通に出向してCMプランナーをしたりと、貴重な経験をしました。6年ほど勤めて、技術が向上し、好きな仕事や得意な仕事が自分のなかに確立し、周囲にも理解されてきたので、2015年からフリーランスに転向します。

今では映像ディレクターという肩書で活動しています。CMをつくったり、ドキュメンタリーを撮ったり、配信ドラマを撮ったり。ぼくの仕事を見てもらうと、「どんな演出家なの?」と混乱されると思います。本当に幅広い仕事をやらせていただいています。ちなみに下記のぼくの作品からわかる通り、CMディレクターとその他の映像ディレクターの違いはこれからどんどんなくなっていくと思います。だからぼくも、CMディレクターではなく映像ディレクターと名乗るようにしています。

映像ディレクター畔柳恵輔さんの仕事

日清チキンラーメン「0秒チキンラーメン」。YouTuberを扮する新垣結衣さんの演出をして話題に

日経電子版「見えてきた?フリマアプリ編」。「なるほどね」のつぶやきで、「日経電子版の読者には何かが見えているらしい」という問題提起をする演出を手掛けた

東海テレビ「この性を生きる。」。ドキュメンタリーディレクターとして取材相手の偽りのない言葉を切り取る

中国放送(RCC)テレビドラマ『恋より好きじゃ、ダメですか?』。広島カープ戦の中継が早く終わった時にのみ放送される、放送日未定という異例の"リリーフ"ドラマ

ディレクターの仕事について教えてください

いまこの記事を読んでいる学生の中には、ディレクター(Dr)、プランナー(PL)、プロデューサー(Pr)&プロダクションマネージャー(PM)の仕事の違いがわからない方も多いと思います。これらを理解している自分が伝えたいのは、境界なんてほとんど存在しないということ。混乱させることを言ってしまい恐縮ですが…。ディレクターもプランニングに関わることもあります。プロデューサーやその前身であるプロダクションマネージャーがディレクションに介入することもあります。ディレクターは監督と訳されますが、監督は英語ではマネージャーだったりしますからね。

一応、ディレクターの領域を解説します。カッコいい言い方をすると、“命を吹き込む仕事”です。企画時点では言葉(プロット)や絵(コンテ)で説明されているものに対して、実際に誰がどう演じてどう撮影するかを考える仕事。言い換えればプランナーの頭の中で考えられたものを、世の中の人に伝わるように橋渡ししてあげるのがディレクターです。

ディレクターを目指す学生に伝えたいことは、2つの目線を持つことです。1つ目は、企画意図を深く洞察するマニアックな目線。2つ目は、果たしてこれが受け入れられるのかを俯瞰する世の中の目線です。エキセントリックであったり、アーティスティックであったりする必要はなく、この視点が大事です。

活躍する人は非凡な才能があると思われがちですが、普遍や常識、流行を理解して分析できる、真面目な人ほどアイデアのヒット率も高いです。ぼくも在籍していたからわかりますが、美術大学という環境は一見すると、変わった人が多いですよね。そんな環境に気負う人がいたら、心配はいりません。奇抜なものにとらわれず、普遍的なものをちゃんと見抜く力を養ってください。さらに、ご自身が面白いと考える“マニアックな視点”も分析し、自分の個性とも向き合う4年間にできれば、きっと就活をしていくなかで素敵な自分と出会えると思います。

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