制約があるからこそ、解決ができる/電通 クリエーティブディレクター 加我俊介さんの〈クリ活〉

制約があるからこそ、解決ができる/電通 クリエーティブディレクター 加我俊介さんの〈クリ活〉

好評発売中の書籍『クリ活2 クリエイターの就活本』から派生して、さまざまな人のクリ活話をお聞きする本企画。今回は、電通のクリエーティブディレクターの加我俊介さん。

明治プロビオヨーグルトR-1の受験生応援広告や、Netflixが2021年の年末に出向した「再生のはじまり」など話題になった広告を数多く手掛けている加我さん。就職活動時には、広告会社はまったく知らなかったそうです。そんな加我さんのキャリアと今のお仕事について伺いました。お話から見えてきたのは広告クリエイターの可能性についてでした。(マスナビ編集部)

写真:加我俊介さん
加我俊介さん電通
慶応義塾大学理工学部卒。外資系コンサルティングファームの朝日アーサーアンダーセン (その後、KPGMコンサルティングに事業統合)に入社。その後、ADKを経て、2012年電通入社。従来型のマス広告に、デジタル・イベント・PR、そして、話題拡散装置としてのOOH等を組み合わせた統合的な広告コミュニケーションを数多く手掛ける。また、広告領域に限らず、音声ARを始めとするサービス開発、展覧会や店舗の企画プロデュース、TVドラマ制作など幅広い領域に挑戦。
【 目次 】
軸がなかった学生時代
広告業界への転身

軸がなかった学生時代

──どんな学生生活を送っていましたか?
小学生の時から、受験勉強が好きでした。問題を解く感覚、頭を動かしている感覚が楽しかったのを覚えています。ただ、残念ながら、一番勉強ができたのは小学生のときだったかもしれません。

大学では理工学部に進学。通信の伝送技術を専攻していたと思います。ただ、あまり真面目に授業を受けていなかったので記憶が曖昧です(笑)。研究室では多くの学生が研究を続けるために大学院へ進学しますが、私は進学しようとは考えていませんでした。よく覚えているのは先輩に誘われてやっていた接客業のアルバイト。とにかくいろいろな人と出会い、話すのが楽しかった。今思えば、そこで幅広い年代の人とのコミュニケーション力を培ったのかもしれません。

──アルバイトにどっぷりだったのですね。どんな就活をしていましたか?
就職活動ではよく「軸」を持てと言われますよね。ただ自分を振り返ると「軸」はありませんでした。就職活動を始めたときは、完全にミーハー心からアナウンサーになろうと考えてテレビ局の入社試験を受けていました。ただ、箸にも棒にも掛からず。ことごとく落ちてしまいました。

その後は、なんとなく華やかそうに見える会社や自分が好きな商材を扱う会社を志望し、商社やアパレル、化粧品メーカーなども受けていました。接客業のアルバイトのおかげか、人と話すことには慣れていたので何社か内定をいただくこともできました。ただ、複数内定が出たなかで、どの会社が良いか決める判断軸を持ち合わせていませんでした。どうしようかと悩んでいたときに、大学OBの方から、「もし進路に悩んでいるのであれば、まずは数年社会勉強をするつもりで、いろいろな企業を俯瞰的に見ることができるコンサルティングファームという選択肢もあるかもよ」とアドバイスを受けました。「なるほど、そういう選択肢もあるのか」と思い、何社かコンサルティングファームを受け、無事に内定をもらい入社を決意しました。

──外資系コンサルティングファームではどういったことをしていましたか?
入社したのは、当時世界5大会計事務所と言われていたアーサーアンダーセンの日本支社で、ビジネスコンサルティング業務を行うファームでした。経営学修士号を持つ同期も多く、理系卒の僕は簿記など最低限の勉強をしながら、アナリストとして、先輩コンサルタントに同行して会議に参加。ひたすら議事録をつくっていました。1日に5~6本の会議に参加して、その日のうちに議事録を作成する、という日々です。

2年目からはコンサルタントになり、サプライチェーンマネジメントをメインソリューションにするチームに所属、主に調達費削減プロジェクトに従事していました。企業が外部調達しているモノやサービスのコストを削減すべく、調達する資材の標準化やサプライヤーの選定、物流含めた仕入れの仕組みの再構築を行う仕事です。そのプロジェクトの延長線で、広告宣伝費・制作費も削減対象にできないかを考える機会があったのです。そこで初めて、普段ボーッと流し見していた「広告」に関心を持ちました。ただ、なかなかその実態・実情をつかむことができず、半ば衝動的に広告会社の中途採用を受け、ADKに転職しました。これが社会人3年目のときです。

広告業界への転身



──ADKではどのようなお仕事をされましたか?
最初は外資系企業を担当する営業部署で、某ラグジュアリーブランドのメディア営業を担当していました。広告の知識は皆無だったので、基本的なところから広告の仕組みを学んでいかなくてはいけませんでした。当時、所属していた部署が営業自ら積極的にマーケット調査やメディアプランニングを行う文化だったため、広告の仕事を学ぶには良い環境でした。ADKに転職して2年目、ユニリーバのAXEという世界的に人気の男性用化粧品ブランドが日本に上陸するため、競合コンペが開催されることに。それまで競合コンペの経験がなかったので手を上げさせてもらいました。結果、コンペに勝つことができ、そこからAXEを担当させていただくことになりました。

当時のAXEチームはクライアントがハブになり、クリエイティブエージェンシーやPRエージェンシーなどいろいろな会社が一つのチームとなってコミュニケーションを考え、実行する、という体制でした。クリエイティブ、デジタル、PRとそれぞれ別の会社が担当。ADKはプロモーションとメディアバイイングを担い、そこで初めてプロモーション領域に触れるようになりました。僕は当初プロモーションの制作営業を担当しており、その流れで気づいたらプロモーションプランナーになっていました。クリエイティブ、デジタル、PRとそれぞれのプロフェッショナルと一緒にチームで仕事ができた、というのは刺激的で、得るものが多かったように思います。

──企画力はどのように身に着けていったのでしょうか?
営業として制作業務を進行する中で、プランナーの方々がどのように考えるのかを間近で見ていました。またそれ以上に学びになったのは、たくさんの企画書を見たことです。社内にストックされていた過去のさまざまな企画書を解読して、なぜこの企画になったのか、そしてどうやってこの企画を通したのか・採用されたのかを研究しました。だからいまでも「企画を考えること」と「企画を通すこと」を同時に考えています。どんなに良いと思った企画でも、世の中に出なければ意味がありません。「企画を考える」ことと同じくらい、「企画を通すこと」を大事に考えているかもしれません。

──企画を考えるポイントを教えてください。
広告だけではなくドラマや店舗など広告以外の企画も経験した上で、両者に通じると考えているのですが、課題や制約こそがアイデアの大きなヒントになるということです。僕にとっては、「自由に考えてください」「自由に表現してください」とゼロからなにかを創造するのは非常にハードルが高い。課題や制約は考える入口になるので、僕は課題や制約をとっかかりに考える、それでうまく考えがまとまらなければ、課題や制約の設定自体に立ち戻って考え直すようにしていきます。

──今回はクリ活(クリエイターの就活)をテーマにインタビューしておりますが、これまでのキャリアを振り返ってみるといかがでしょうか? 
明確なキャリアビジョンがあったわけではなく、偶然の出会いや出来事に柔軟に対応した結果、今のキャリアになりました。はじめからやりたいことがあるのは素敵なことだと思いますが、仕事をしながらやりたいことを見つけることも全然可能だと思います。

正直、いきあたりばったりでした。ただ軸はなかったものの、逆にどんな仕事にも飛び込めるように、どんなときにも正しいアクションが取れるように、ビジネスパーソンとしての足腰は最低限鍛えておこうとは考えていました。そういう意味で、新卒時に、コンサルティングファームで経験を積めたことはよかったと思っています。

コンサルティングファーム時代の議事録作成の経験は今でも役に立っています。議事録は、発言をそのまま書き写すなら簡単です。でも、議事録には、行間を読み、それぞれの意見を解釈して合意形成を図るというエッセンスが詰まっています。次の会議や社内の稟議もその議事録を元に始まります。会議のファシリテーションや企業間の調整にも通じる作業だと今になって感じますね。

──今後クリエイターとしてやりたいことをお聞かせください。
広告会社に求められる領域は確実に広がっていると思います。例えば、以前ドラマの企画を担当させていただきました。純粋にドラマや映画をつくるだけであれば、その道のプロフェッショナルに頼んだほうがより良いものができるはずです。ただ、「予算に問題がある」「テレビとSNSを一体で考えたい」などの制約や課題付きであれば、これまで広告制作で培ってきた企画のノウハウが活かせると考えています。

また、広告に関しては。今はテレビCMをはじめとする従来型の広告の枠組を超えたアプローチがいろいろと開発されていますが、だからこそ、あえて逆に「これぞ広告」みたいな王道なコミュニケーションに挑戦したい気持ちがあります。

──広告業界の未来について、加我さんのお考えを教えてください。
狭義の広告ではなく、より広い領域でクライアントのサポートができるようになっていくと思っています。個人としても広告領域だけではなく、新事業創出や商品開発などのサポートにも携わっていきたいですね。

また働き方や人材の観点でいくと、より流動的になっていくと思います。例えば、電通社員と博報堂社員はこれまでは一緒に仕事ができなかったけれども、タッグを組むことができるようになるとか。そうなったらどんな化学反応が生まれるのか、より面白いアイデアが生まれてくるかもしれませんね。


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