広告という枠にしばられなくてもいいんだ。そう気づいて自由になった/クリエイター・オブ・ザ・イヤー山﨑博司さんの〈クリ活〉

広告という枠にしばられなくてもいいんだ。そう気づいて自由になった/クリエイター・オブ・ザ・イヤー山﨑博司さんの〈クリ活〉

YouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」、日本マクドナルドのハッピーセット年間キャンペーン「みんなで!どう解く?」、LIFULL HOME'S「FRIENDLY DOOR」などを担当する博報堂の山﨑博司さん。クリエイティブ領域の拡張をしてきた取り組みが評価され、2021年にはクリエイター・オブ・ザ・イヤーの栄冠も手にしました。クリエイター・オブ・ザ・イヤーの受賞を記念して、2022年6月22日に公開インタビューが行われました。当日の様子をお届けします。就職活動や入社後の苦労、広告クリエイターの可能性など、たっぷり語っていただきました。

写真:山﨑博司さん
山﨑博司さん博報堂
1983年岐阜県生まれ。2010年博報堂入社。TBWA HAKUHODO出向を経て、現部署。「言葉の力で、社会を動かす」をモットーに、社会課題を解決するコミュニケーションを手がける。2021年クリエイター・オブ・ザ・イヤー、TCC賞、TCC最高新人賞、ACCグランプリなど受賞。著書に「答えのない道徳の問題 どう解く?」。
【 目次 】
常に時代と向き合いながら、自分の考え方をアップデートしたい
クリエイティブの仕事ができていることへの感謝
「広告という枠にとらわれなくてもいいんだ」
コピーには、世の中の価値観をガラっと変えることができるすごい力がある

常に時代と向き合いながら、自分の考え方をアップデートしたい

──広告業界を目指したきっかけを教えてください。
大学・大学院と6年間建築学科に在籍し、主に意匠設計を勉強していました。研究室の一部の先輩が広告業界に進むこともあり、広告業界に自然と目が向きました。広告と建築はどちらも課題を解決する仕事で、共通点が多いからだと思います。建築は、家を建てたい人がいて、要望をもとに敷地条件などの制約を踏まえながら、どんな空間にするか建築物のアイデアを提案していきます。広告もクライアントさんがいて、要望や課題をもとにコミュニケーションアイデアを提案します。どちらも決まった正解がないという点で、すごく似ているのです。

就職活動を始めたのは大学院1年生の夏。博報堂のインターンシップに参加してからです。そこで広告業界の仕事をぼんやりとイメージすることができました。

その後は、OB訪問を多くしました。それは、10年後の自分の未来像がよりイメージできるようになるから。面接の際の志望動機の説得力が増したかなと思います。

面接では楽しい会話をしようと心がけていました。面接官も忙しい時間を割いているので、「この学生と話して楽しかったな。一緒に働いたら楽しいだろうな」と感じてもらうことをゴールにするのがいいのかなと考えていました。

──最終的に広告業界を選んだ理由についても教えてください。
最後まで広告か建築かで揺れていました。決め手は、僕自身が細かい時間軸のプロジェクトの方が好みだったからです。建築だと、数年~十数年スパンのプロジェクトが当たり前です。一方で広告は1クールや1年間のキャンペーンが多い。次々にやることが変わっていきます。このスピード感が自分には向いている。常に時代と向き合いながら、自分の考え方をアップデートしていく道を志しました。

クリエイティブの仕事ができていることへの感謝

──入社してからのキャリアについて伺いたいです。
入社後は、希望のコピーライターになりました。ただ半年間にわたる研修後に現場に配属されるも、まったく付いていけず。クライアントさんからオリエン資料を渡されても理解できません。当然、考えた企画も的外れのものばかり。がく然とする日々を過ごしました。


──どのように乗り越えましたか?
当時、博報堂では新人はトレーナーについて仕事を教わるのですが、トレーナーから1回の打ち合わせで、コピー案をたくさん持っていかなければならず、時には100本持っていくこともありました。打ち合わせは2日に1回くらいのペースで、ハードな課題だったと思います(笑)。でも、量をこなすことで、何とかプロのコピーライターの思考法を身につけていけていくことができました。

また、同時にたくさんの自主研究もしました。宣伝会議の本を読んだり、コピー年鑑を見たり。良いコピーの分析をして、自分が書くときにどう再現できるかを考えます。学生のみなさんも身に覚えがあると思います。数学は、公式を知らないと解けない問題もあると思います。それと同じです。どこかにコピーの公式があるのではないかと、研究するために時間を費やしました。


──そうした努力のモチベーションは、どこから湧いていたのでしょうか。
クリエイティブの仕事ができていることへの感謝があるからかもしれません。博報堂では、クリエイティブ職を希望される方がいます。けれど希望していても配属されないケースがあります。世の中にもクリエイティブな仕事をしたくてもできていない人も多いはず。そういう人たちがいるのに、運よくクリエイティブ職に就けた自分が頑張らないのは失礼だと思っているからです。「山﨑、あんなにやってるんだ。あれだけ一生懸命やっているなら仕方ないか」と感じてもらえるように、努力し続けています。

「広告という枠にとらわれなくてもいいんだ」

絵本「答えのない道徳の問題 どう解く?」

ターニングポイントとなった仕事を教えてください。
入社4年目の2013年に日本新聞協会の新聞広告クリエーティブコンテストに応募しました。「しあわせ」について新聞広告をつくってくださいという課題だったのですが、そこで「ボクのおとうさんは、桃太郎というやつに殺されました。」というコピーで最優秀賞を受賞しました。これは視点を変えて物事を見ることの大切さに気づいてもらうことを企画し、広告業界だけでなく世の中でも大きな反響を呼びました。そこから広がりを見せて、「道徳教育の教材になるのでは?」と教育業界で話題になり、中学校の先生と授業をつくることになったのです。カードやサイコロを使うなどゲーミフィケーションという広告的手法を用いたワークショップ形式の授業を設計し、いまでは多くの学校で採用されています。

この経験から、「広告という枠にとらわれなくてもいいんだ」と気づきを得られました。広告クリエイターも、広告的なアプローチを駆使して、広告以外の様々なものづくりをすることができる。それを体感できて、一気に自由になった気がしました。

その後、授業づくりを共にした先生から当時の道徳授業の問題についてお話を伺いました。学生が自分で考えて出した答えではなく、大人が喜びそうなことを言ってしまう。しかしそれでは思考力を養うことにつながらないという問題でした。

そこで、幼児期から考える力を養うための絵本がつくないかと思いました。それが『答えのない道徳の問題 どう解く?』(ポプラ社)です。大人が子どもに教えるのではなく、みんなで一緒に考えるきっかけとなるツールになることを狙いました。「どうして正義のヒーローは、悪者を殴っていいんだろう?」や「ついていい嘘と、ついちゃいけない嘘の違いってなんだろう?」といった答えのない問いが書かれています。


──この本がどのようにつながって、日本マクドナルドの企画が生まれたのでしょうか。
自分の子どもと訪れたマクドナルドで、ハッピーセットのおもちゃの選択肢の中に本があることを知り、急ぎ自主プレゼンをしたことがきっかけです。マクドナルドさんも僕らの提案やこれまでの流れを評価していただき、1年をかけて日本中の子どもたちと一緒にハッピーセットの絵本をつくる企画がスタートしました。

コピーには、世の中の価値観をガラっと変えることができるすごい力がある

──広告クリエイターとして大切にしていることはありますか?
クライアントさんの課題解決になっているかを最優先に考えています。その上で、制作物を見た人が少しでもいい気分になったり、社会が少しでも良くなったりするのかも合わせて考えています。

またコピーライターの自分の武器は、やはり広告領域で培ってきた「言葉」です。桃太郎のコピーも、本のタイトルも、言葉の力を発揮した結果、ここまで反響のあるものになりました。コピーには、世の中の価値観をガラっと変えることができるすごい力があると信じて、今後も広告業界外と掛け合わせて、社会に還元していきたいと考えています。

──最後に、どんな学生が広告業界に向いているかを教えてください。
好きなものを持っている人は素敵だと思います。それが建築でも、アイドルでも、テニスでも何でもいいですが、何か一つは誰にも負けないくらい詳しいことがあるといいですね。

そういう人との会話は楽しいです。自分の知らないことを教えてくれるから。面接でも盛り上がりますし、印象にも残りやすいです。みんなとは違う自分だけが語れる何かを見つけてほしいですね。













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