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アートを社会にインストール? 博報堂とバンダイナムコ研究所の共創プロジェクト エンタメコンテンツ就活フェス〈イベントレポート〉

マスナビ編集部

アートを社会にインストール? 博報堂とバンダイナムコ研究所の共創プロジェクト エンタメコンテンツ就活フェス〈イベントレポート〉

業界や領域を超えて活躍している人たちが一同に介する「マスナビ越境フェスvol.1」が2021年7月19日に開催されます。今回は、マスナビ越境フェスの前進であり実験的なイベント「エンタメコンテンツ就活フェス(マスナビ越境フェスvol.0)」のレポートをお届けします。

同イベントでは、博報堂×バンダイナムコ研究所、電通×ソニー・ミュージックエンタテインメントの対談が実現。業界の垣根を超えたそれぞれの取り組みについてお話いただきました。

1ブロックに登壇したのは、博報堂 田中れなさんとバンダイナムコ研究所 荒明浩一さん、岩田永司さん、河野通就さんの4人です。博報堂とバンダイナムコ研究所、さらにオーストリアのリンツ市に拠点を置く国際的クリエイティブ機関「アルスエレクトロニカ」。彼らの協業によって生まれた「FUNGUAGE」という活動について、ビジネスとクリエイティブ、2つの起点から、それぞれお話をお伺いしました。

アートシンキングとは?

──はじめに「アートシンキング」について教えてください。

田中:はじめに私が所属するのは博報堂のブランド・イノベーションデザイン局です。この部門では、「未来のための変革をデザインする」ことをミッションに掲げています。具体的には、企業の新規事業の開発やUX(User Experience:ユーザー体験)、組織変革、オープンイノベーションまで請け負う、ブランドとイノベーションの専門集団です。国際的クリエイティブ機関「アルスエレクトロニカ」とは、グローバルパートナーを締結しています。

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田中:同局とアルスエレクトロニカは協働プロジェクトにおいて「アートシンキング」を日本社会に浸透することを目的としています。我々が提唱するアートシンキングとは、「アートについて考える」ことではなく、「アートが発する問いにどう応えるか」を主軸に、アートと企業という関係に限らず、異分野の人々が対話する場を生み出す活動を指します。また、デザインシンキングと相互補完的にプログラムを組成し、企業のイノベーション支援としてパーパス(存在意義)策定や技術戦略の立案などのサービスを提供しています。

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このプロジェクトでは主に、テクノロジーと社会・人間の境界領域を扱う「メディアアート」に着目しています。AIやロボティクス、バイオアートなど未来的な示唆に富むメディアアートから得た発想をベースに、「既存の思考の枠組みを取り外すような問いを生み出す」。そこから、今後向き合うべき根源課題を導き出していくこと。それがアートシンキングの狙いです。そしてこのアートシンキングのもと、バンダイナムコ研究所と協働プロジェクト「FUNGUAGE」を発足しました。

アソビを社会にインストールする

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──「FUNGUAGE」について具体的に教えてください。

荒明:「FUNGUAGE」は、楽しいを意味する「FUN」と、言語を意味する「LANGUAGE」を合わせた造語です。人やモノなどに、バンダイナムコ研究所がゲームなどのエンターテインメントで培ってきた「アソビ」の力を取り入れ、人々の行動を誘発します。そうやって「FUN」を伝播させていくことで、「楽しいつながり」を生み出していく。これを社会に「アソビ」を実装するデザインコンセプトと位置づけ、さまざまな実装実験を展開していきました。

2017年から2019年にかけては、世界最大級のメディアアートの祭典「アルスエレクトロニカフェスティバル」にも出展しました。そして2020年2月には、東京・六本木にある東京ミッドタウンで開催された「未来の学校祭」にて、「アソビ」を取り入れたエスカレーター「“Humanized Canon” composed by Escalator」を発表しました。

「“Humanized Canon” composed by Escalator」は、「アソビ」を実装することでエスカレーターの安全利用と導線を生み出すことを目的とし、開発されました。具体的には、このエスカレーターに正しく乗っていると、楽曲が流れます。カノンという名前の通り、一人で乗っている時の曲は寂しめですが、多くの人が次から次へと乗ると音が重なりリッチな曲になっていく。ただし、エスカレーターを歩いてしまうと、そこまで奏でた音楽がスッと消えてしまいます。この仕組みをエスカレーターに組み込むことで、エスカレーターの安全利用を推進していきました。後日、この結果を分析したところ、ほかのエスカレーターよりも乗車率と手すりの利用率が向上したことが明らかになりました。このように「FUNGUAGE」では、FUNが社会の問題解決や新しい事業の可能性を創出することの立証を続けています。

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──「アルスエレクトロニカフェスティバル」に出展して感じたことはなんですか?

荒明:強く感じたのは、やはりアートとゲームの違いですね。アートは、私たちが手がけてきたゲームとは当然ながらまったく異なるものです。同じ部分もあるのですが、それ以上にゲームでは使わない視点やアイデアも多くありました。アルスエレクトロニカフェスティバルに出展している作品の多くは、根幹の発想が異なっていると感じましたね。

岩田:荒明が話したように、作品の違いは私も強く感じた部分でした。私たちは完成された作品を提出しがち。それはそれでもちろん良いことだと思うのですが、アルスエレクトロニカフェスティバルに出展されている作品はわざと隙間を残して作品を展示していた。つまり、見ている人に問いを投げかけて、そのフィードバックを待っている。展示の場で生まれるやり取りも計算に入れるのは、ゲーム制作的ではなかったのですごく印象に残りましたね。アルスエレクトロニカフェスティバルは異分野が交流する場所であると思いました。


──「FUNGUAGE」の展望を教えてください。

岩田:いままでなかった新しい言葉を「FUNGUAGE」からつくり出したいと思います。子どものころ、遊びでいろいろなモノや言葉をつくってきたようなわくわく感を持ちながら、モノづくりをしていきたいですね。そこに多くの人を巻き込んでいきたいです。

あともう一つ、個人的に考えているのはヒトとモノをつなぐ方法です。いまだと、「スマート〇〇」のような名称で呼ばれることが多いですが、これは本当に正しいのでしょうか? 「スマート」よりも「ファニー」といった楽しいつながり方のほうが、もしかすると人々には受け入れられるのではないでしょうか。この仮説も機会があれば突き詰めていきたいですね。

河野:私は、「FUNGUAGE」を人間以外にも拡張していきたいです。感情や考えを持つのは、なにも人間だけではないのではないか。私はそう考えていて、「FUNGUAGE」の対象を拡大していけるといいですね。


──就職活動を目前にした学生へメッセージをお願いします。

荒明:就職活動をする方たちは、仕事の内容やそのほかの面でも、なにかしらのこだわりを持って就活をすると思います。ただ、その最初に持つこだわりが入社後に不要になったり、もしくはさらに広がったりするなど、入社前と入社後で視野が変わることがあります。だから、時間をかけて情報の精査をすることをおすすめします。その中で、自分が持つこだわりは本当に必要か疑い、ブラッシュアップしていくと、納得度の高い就活ができるのではないでしょうか。

田中:私が学生のときに、いま現在の自分の姿を想像できたかというと、まったくできていませんでした。だから、あまり自分のこだわりに縛られずにその瞬間のご縁を大切にしてほしいと思います。あとは、どんな問題もやり遂げるマインドや自分の考えを言語化する能力など、どんな状態であっても役に立つものもあります。それらをできるだけ多く取得するよう努力することは、決して無駄にはならないと思いますね。

登壇者プロフィール

博報堂
ブランド・イノベーションデザイン局 イノベーションプロデューサー 田中れなさん
2007年博報堂入社。アートシンキングを起点に、アルスエレクトロニカとの共同プロジェクトを推進し、企業のイノベーション支援プログラムを多数提供。未来社会での課題発見のリサーチ・アクションプラン開発など、未来を構想するプログラム制作に従事している。

バンダイナムコ研究所
イノベーション戦略本部 フューチャーデザイン部 荒明浩一さん
外資系ゲーム企業を経て、2007年バンダイナムコゲームスへ入社。業務用・家庭用の「鉄拳6」プロジェクトにゲームデザイナー・ディレクターとして参加。2017年よりフィールドを研究開発(R&D)へシフトし、アルスエレクトロニカ・フューチャーラボと博報堂とのプロジェクトに参画。2019年よりバンダイナムコ研究所にて「FUNGUAGE」を含むオープンイノベーションを推進。

イノベーション戦略本部 フューチャーデザイン部 岩田永司さん
2011年バンダイナムコゲームスに入社、主に社内ミドルウェアの開発に従事。現在はバンダイナムコ研究所に所属し、xR(Extended Reality)を主軸として新進の技術や概念を取り入れたエンターテインメントの開発に取り組んでいる。

イノベーション戦略本部 フューチャーデザイン部 河野通就さん
2014年、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。メディアアートに関する制作と研究に従事し、国内外多数の展覧会において作品出展を行う。2018年、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学、博士(学際情報学)。東京大学大学院情報学環特任研究員を経て、2019年よりバンダイナムコ研究所に所属。ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI)、人間拡張に関する研究に従事。