RESEARCH業界・職種を学ぶ 就活・自分を知る

レポート

ゼミやサークルを優先して、就活を後回しにしてしまうのはなぜ? ─ 就活を成功させるための心理テクニック 第1回

橋本之克さん

ゼミやサークルを優先して、就活を後回しにしてしまうのはなぜ? ─ 就活を成功させるための心理テクニック 第1回

近年大注目の「行動経済学」。不合理な生き物である人間を、心理学と経済学を用いて分析する考え方で、マーケターが消費者インサイト(消費者自身が気づいていない本音や動機)を捉える際にも参考にするメソッドです。就職活動も人の不合理な判断が少なからず起きてしまいます。判断を誤らないように。行動経済学を用いて就活対策をするならば──。『9割の買い物は不要である 行動経済学でわかる「得する人・損する人」』『スゴイ! 行動経済学』などの著者の橋本之克さんによる連載をスタートします。目の前の就活だけでなく、将来の仕事から実生活にも役に立つ、就活を成功させるための心理テクニックをお伝えしていきます(マスナビ編集部)。

行動経済学を制して、就職活動を制する!?

皆さん、「行動経済学」を知っていますか? 2002年から約15年の間に3人のノーベル経済学賞の受賞者を輩出して注目を集めたので、ご存知の方もいるかもしれません。行動経済学は、20世紀半ばに生まれた比較的新しい学問であり、簡単に言えば経済学と心理学が融合した新たな経済学です。従来の経済学と違って「人間は心理的バイアス(認知、思考や判断を狂わせる偏りや歪み)に影響されて不合理な行動を行ってしまうものである」という前提に立っている点が特徴です。人間は、大事な選択や決定を直感や感情に頼ってしまうことや、重要でない情報に振り回されてしまうことがあります。行動経済学は、こうした不合理な行動を司る心理のメカニズムを明らかにしています。これは就活においても役立ちます。

就職試験は多くの人にとって初めて、自分という人間の知識、性格、能力などすべてを評価される機会です。就活においては、人間としての総合的な実力を高めることが必要になります。しかし、そのプロセスは簡単ではありません。
不要な情報に惑わされる危険があります。例えば、自身の将来像を描く際に世間の常識に縛られるケースです。また自分自身がわからなくなる人もいます。例えば、企業選択の幅広さに直面して自分の志望が見えなくなるケースです。あるいは雑念が振り払えなくなる人もいます。例えば、周囲の就活生の進行状況や知人の意見などの情報に左右され過ぎるケースです。このような場面で人は焦ります。準備は進まず、時間だけが過ぎていきます。結果的に、面接の場でも本来の実力を出せず、自滅して終わります。

こうした状況で人は「不合理」な判断や行動をします。しかしすべてが無意識であるため、自分で気づくことはできません。この状態を避ける第一歩は「自分自身は、すべての人間と同様に、不合理な判断や行動をしてしまうものだ」と認識することです。そして行動経済学により人間の心理を理解することが有効です。

後回しにしてしまうのは「現在志向バイアス」が働いている

さて、ここからは具体的な話に入ります。コロナ禍以降、就活はもちろん、仕事や学習などさまざまな活動がリモートで行われるようになりました。リアルな人間同士の交流が減っています。その結果、より重要になった人間の能力は何だと思いますか? 答えは「セルフコントロール力」です。リモートでは、目の前に仕事を指示する上司や、授業を行う教師はいません。自分一人の部屋ならばパソコンのカメラから隠れた場所では、何をしていようとバレません。そのような状態でも、仕事や学習を進めなければなりません。従って自分の行動を自分で律する能力が非常に重要なのです。

現在の就活でも、一人で部屋にこもって準備する時間が増えています。しかも就活は何カ月もかけて行うものです。このプロセスを客観的にチェックしてくれる人がいないと、物事の優先順位を誤ることがあります。そこで
不合理な行動を取らないよう、覚えておくべき行動経済学の法則があります。「現在志向バイアス」です。未来に得られる高い価値を低く見積もってしまい、逆に目先の価値を過大に評価して、これを優先する心理です。身近な例は、禁煙すれば将来肺ガンになるリスクが減ることをわかっていながら、目先の心地良さを優先してタバコを吸い続ける行動です。

皆さんは試験直前の勉強中に、まったく関係ない本を読み始めて止まらなくなった経験はありませんか。勉強が大事だとわかっていても、本が面白く感じてやめられない状態です。これは、勉強から逃げるという意味で「逃避」と呼ばれることがあります。しかし行動経済学の考え方は少し違います。勉強して良い成績を取ることも、本で知識を得ることも同じく「価値がある行動」です。しかし「現在志向バイアス」によって、直近の読書の価値を高く見誤り、勉強を後回しにしているのです。

就活においても、これとまったく同じことが起きかねません。例えば、
早く情報収集や自己分析をすべきだとわかっていても先送りしてしまう状態です。これは、現在の就活によって未来に得られる価値の高さを見誤ることによる、優先順位の判断ミスです。「現在志向バイアス」が影響しています。ここで注意すべきは「自分は就活から逃げている」と、自分を責め過ぎないことです。なぜなら、これは無意識の判断の結果だからです。就活を後回しにするという判断は間違いですが、「逃避」ではないのです。この点を忘れると、不必要な自信喪失に陥る危険があります。

後回しを正当化してしまう「機会費用の軽視」

もう一つ、就活を含む行動の優先順位に関連する行動経済学の法則を紹介しましょう。「機会費用の軽視」です。行動経済学では、選択肢の中で一つを選択した結果、もし選ばなかった選択肢を選んでいたならば、得られたはずのメリットのことを「機会費用」と呼びます。そして、これを軽視する心理が働きます。身近な例は、ダイエット中なのにお腹いっぱい食べてしまった状態です。美味しさや満腹感を味わっている時に、もしも節制していれば得られたはずの「健康や体形の維持」については考えません。それは「機会費用」なので「軽視」されるのです。


就活中の皆さんもきっと、授業やゼミ、アルバイト、サークル活動、自分の趣味など、やるべきことが数多くあるはずです。もし、目前の活動を優先して、就活を後回しにすることがあったとしても、そのことに罪悪感を抱かずスルーしてしまうのは止めましょう。無意識のうちに、就活を優先していれば得られたはずの価値(=機会費用)を軽視する危険があるためです。さらに、もしこの「機会費用の軽視」が「現在志向バイアス」と重なって作用すると、さらに危険です。目前の活動を優先し、後回しにした就活を軽視するという最悪のサイクルに陥るためです。

さて第1回はいかがだったでしょう。今後、さまざまな角度から就活を成功させるための心理テクニックをお伝えしていきます。どうぞお楽しみに。


第2回「同級生と同じ時期に就活スタートすれば大丈夫?」を読む

著者プロフィール

マーケティング&ブランディングディレクター/昭和女子大学 現代ビジネス研究所 研究員 橋本之克さん
東京工業大学社会工学科卒業後、読売広告社、日本総合研究所を経て、1998年アサツー ディ・ケイ入社。戦略プランナーとして金融・不動産・環境エネルギー等の多様な業界のクライアント向けに顧客獲得業務を実施。2019年独立。現在は、行動経済学をビジネスに活用する企業向けのコンサルティングや研修講師を行う。また企業や商品に関するブランディング戦略の構築と実施にも携わる。著書に『9割の買い物は不要である 行動経済学でわかる「得する人・損する人」』(秀和システム)、『世界最前線の研究でわかる! スゴい! 行動経済学』(総合法令)ほか。