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レポート

【マスコミ徹底解剖】出版社のしごと

マスナビ編集部

【マスコミ徹底解剖】出版社のしごと

小学館、集英社、講談社に代表される出版社。紙媒体の売上は減少傾向ですが電子書籍は好況で、2020年の出版市場全体の売上は前年比4.8%増の結果です。さらに豊富なコンテンツを使った新たなビジネスが始まり、購読費や広告費以外の新たな収益源が生まれつつあるのを知っていますか? 紙媒体中心の事業体制から生き残りをかけて、業界の構造に大きな変革が生まれようとしています。この記事では出版社の職種と業界の動向を徹底解剖。一緒に業界研究していきましょう!

出版社とは

書籍や雑誌の制作、発行をしている出版社。雑誌や書籍を企画し、作家やライターとコミュニケーションを取りながら、制作を進めていきます。

出版社にはさまざまなジャンルを手掛ける総合出版社と、ビジネス、エンタメ、医療、教育など特定のジャンルに強みがある專門出版社の2つに分けられます。総合出版社としては小学館、講談社、集英社、KADOKAWAなどがあります。また、專門出版社では受験や資格関連の学習参考書に強みをもつ旺文社や、経済関連に強みを持つ東洋経済新報社、『ぐりとぐら』などで知られる児童書に特化した福音館書店などが知られています。

出版社と編集プロダクション

雑誌や書籍の制作には出版社だけではなく、編集プロダクションと呼ばれる制作機能をもつ会社も携わっています。出版社が書籍や雑誌のテーマや方向性などの根幹部分から企画するのに対して、編集プロダクションは制作・編集などの制作部分を中心に行います。ただ最近では、編集プロダクションが企画に携わるケースも増えてきました。

出版社と編集プロダクションの大きな違いは編集部以外の部門(営業や宣伝など)の部門を持つかどうかです。出版社は雑誌や書籍を販売する責任を負うため、営業や宣伝のチームが欠かせません。一方編集プロダクションは、コンテンツを制作し、それを出版社に納品することで収益を上げているため、本の売上を上げるための機能は持っていないのです。

出版業界の構造

出版業界には大きく分けると3つの登場人物がいます。書籍・雑誌を企画し発行する「出版社」、生活者に本を販売する「書店」、そして出版社と書店の間を取り持ち、卸問屋のような機能を持つ「取次」です。

「取次」というのは日本の出版業界特有の立ち位置です。出版社が発行した書籍や雑誌を一手に引き受け、全国の書店に送り届ける流通
(配本)機能を持っています。また売れ残った書籍を回収し、出版社に返品も行います。

取次が存在しない場合、出版社と書店は直接取引を行わなくてはなりません。書籍というのは膨大な種類があるので、在庫の管理が大変ですし、売れ残ると損失につながってしまいます。そこで仲介役として取次が入り、書籍の配送や代金の回収をスムーズすることを実現してきました。取次は書店が注文していない場合でも過去の販売実績などを元に、新刊書籍を届けています。この取次の存在によって多種多様な本が並ぶ書店が成立しています。

この取次を介した流通を成立させるため、下記の制度が長年守られてきました。

■委託販売制度
出版社が生活者に直接販売するのではなく、取次と書店に販売を委託する制度です。売れ残った書籍は、取次を介して書店から出版社へ返品され、その負担は出版社が持ちます。この制度があるおかげで、取次や書店は多種多様な本を仕入れることができ、書店にはさまざまな本が並んでいます。

■再販売価格維持制度
出版社が定価を決定し、書店はその価格で販売する(ただし新品に限る)制度です。これは、書籍や雑誌は「文化資産」と捉えられており、文化水準を維持する上で重要な役割を果たしています。地域間で同じ本の価格に差があることは、全国の文化水準の格差を生み出すことにつながる可能性もあります。このため、全国で同一の価格を維持するために再販売価格維持制度が存在しています。つまり、本屋ではどんなに売れ残ったからといって値引き販売されることはないのです。

出版社の職種

■編集者
出版社と聞いて、一番に思い浮かぶ職種ではないでしょうか。編集者は書籍や雑誌などの制作を担当します。小説やマンガの編集者は作家との細やかなコミュニケーションが求められます。またアイデア出しを行うこともあります。

雑誌や書籍の場合には、掲載する記事や書籍の企画を立てます。売れそうというだけではなく、読者がなにを求めているのかを分析し、それに沿って企画を出していきます。その企画を実現するために必要なスタッフを選定し、予算を立てます。編集会議などで企画の社内承認が降りると、制作がスタートし、選定したライターやデザイナーなどに発注をします。スケジュール管理や、予算管理、取材先の取材許可取り、印刷所での印刷の仕上がりチェックなど、企画した書籍・雑誌が完成するまでの責任を持つ役割です。

■雑誌取材記者
まず編集会議でどんな企画・テーマで雑誌誌面を構成するのか決めます。編集会議で大枠の特集の方向性や細かな紙面構成(取材内容)が決定すると、取材対象者の調査を進めていきます。その後、対象者への取材打診やライター・カメラマンの調整も進めます。雑誌やテーマによって取材内容はさまざまで、ビジネス誌であれば代表へのトップインタビュー、音楽誌であればアーティストへのインタビューなど多岐に渡っています。出版社に所属している記者もいますが、フリーランスで出版社と個別に契約を結び活動をしている人もいます。

■校正・校閲担当者
校正・校閲は読者の視点に立って文章を読み、間違いや疑問を提示する作業のことです。

校正は原稿と実際の制作物の文字に違いがないかを確認する「突き合わせ」の作業と、「赤字照合」と呼ばれる修正箇所が正しく修正されているかを確認する作業の2つに分類をされます。この時、内容に関しては読み込まず、文字だけで判断をしています。

校閲は内容や意味を読み、誤りを直す作業です。誤字や内容の矛盾などを見つける「素読み」と固有名詞やデータなどが正しいのか確認する「事実確認」の作業があります。

■資材・制作
雑誌や書籍、写真集など紙媒体として発刊される出版物の用紙を選定、発注します。費用の算出や印刷・製本・付録制作といった各過程での進行・管理を行います。

■広告営業
主に、雑誌に載せる広告の広告主を探してくることが仕事です。広告主や広告会社に対し、スポンサーとなってくれるよう提案・交渉を行います。広告主側がクリエイティブを用意する純広告だけではなく、雑誌のテーマや特徴を活かしたタイアップ広告や、イベントの提案なども行います。特にタイアップ広告は広告主が訴求したい商品やサービスを編集部が取材し記事にする広告で、ファッション誌などで頻繁に用いられています。

■書店営業
書店や小売店に対して、自分の出版社が発行する書籍を棚に並べてもらい、より販売数が上がるように提案を行います。書籍の魅力や市場の動向などを書店の担当者に伝えながら、販促物(POPやポスター)などのアイテム制作のサポートを行うこともあります。

■宣伝
自社出版物を多くの人に認知してもらい、購入してもらうかを考えて、企画を実施するポジションです。広告の出稿やプレスリリースによる新刊の告知、イベントの開催、SNSを活用した書籍の宣伝などが挙げられます。宣伝担当がいる出版社もいますが、編集者が宣伝業務を行うケースもあります。

■デジタル推進
近年、各出版社が力を入れている部門です。電子書籍や電子コミックなどの各種デジタルコンテンツに関する業務を行っています。ただそれだけではなく、自社のデータを活用したビジネス企画を立案・実行、編集部や宣伝部などと協力してデジタル施策を展開します。通販サイトやアプリ開発を行っている企業もあります。

■ライツ
書籍やマンガなどのアニメ化や映画化、舞台化などを進める部門です。版権に関する交渉が主な業務になります。また海外での出版に関する契約なども担当するケースがあります。

出版業界の新たな動き

ここでは出版業界の新たな動きと出版社の取り組みについてご紹介します。

■Amazonの進出
皆さんも一度は使ったことがあるのではないでしょうか? Amazonは出版業界に大きな影響をもたらしています。その一つが、2021年9月に発表した、大手出版社の講談社との直接取引です。これまでAmazonは取次を介して書籍を仕入れ、販売を行っていました。ただ、Amazonは大規模な倉庫と配送網を持っていることから、取次を介さずともスムーズに書籍を生活者の元に届けることが可能できるため、出版社に交渉しています。

またこれまでにも、売れない本は返品ができる「委託販売制度」ではなく、出版社から本を買い取ってしまい、自分たちで販売する、買い切りに取り組んでいました。これは出版社にとっては書籍を返品される心配がないため、大きなメリットとなります。さらにAmazon Kindleという電子書籍市場も持っているため、書籍の電子化にも積極的です。このようにAmazonの台頭によって、出版業界も大きな変革が起きています。

■総合コンテンツカンパニーへの変貌
書籍・雑誌をつくって売るだけではなく、コンテンツをつくってきたノウハウをもとにした新たなビジネス開発も積極的です。マンガ原作が大ヒットした『鬼滅の刃』は、アニメ化や映画化、さらにさまざまな商品とのコラボを進め、版権を持つ集英社にとって大きな収益源となりました。

また集英社ではゲームクリエイターを支援するプロジェクト「集英社ゲームクリエイターズCAMP」が始まりました。講談社でも「講談社ゲームクリエイターズラボ」が始まるなど、ゲームジャンルにも手を広げています。

出版社がゲームクリエイターを支援するのは、これまで培ってきたノウハウが活かせることが理由の一つとしてあります。出版社は作家と編集者が二人三脚で書籍をつくり出し、世の中に届けてきました。ゲーム制作の世界においても、出版社が編集者的な立ち位置でクリエイターをサポートすることで、より面白いコンテンツを生み出し、世の中に発信できる可能性があります。

おすすめのコンテンツ

新たな動きが活発化している出版業界。紙からコンテンツへ。またこれまでの商習慣も変わり始めています。企業研究を行う際には、その企業の採用HPだけでなく、出版業界全体の動きを認識した上で、各企業がどういった取り組みをしているのか、調べてみると良いのではないでしょうか。また業界研究を進める上でおすすめコンテンツをご紹介します。  

■就活でどうしても会いたい編集者20人へのOBOG訪問
出版業界の最前線にいる編集者の皆さんにOBOG訪問を実現! マンガ『ONE PIECE』の編集者や雑誌『BRUTUS
』『コロコロコミック』など、名だたる作品を手掛けた編集者たちが集まっています。ヒット作を創り出した編集者のタイプとは? ぜひ手にとって見てくださいね。

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