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レポート

企業や面接官への好感度をコントロールするには ─ 就活を成功させるための心理テクニック 第6回

橋本之克さん

企業や面接官への好感度をコントロールするには ─ 就活を成功させるための心理テクニック 第6回

近年大注目の「行動経済学」。不合理な生き物である人間を、心理学と経済学を用いて分析する考え方で、マーケターが消費者インサイト(消費者自身が気づいていない本音や動機)を捉える際にも参考にするメソッドです。就職活動も人の不合理な判断が少なからず起きてしまいます。判断を誤らないように、行動経済学を用いて就活対策をするならば──。第6回は、テレビCMにタレントが起用される理由から、人が受ける印象について解説していきます。目の前の就活だけでなく、将来の仕事から実生活にも役に立つ、就活を成功させるための心理テクニックをお伝えしていきます。(マスナビ編集部)

テレビCMにタレントが多いのはなぜ?

テレビCMで好感度の高いタレントを起用する大きな狙いは、タレントの影響力を利用して商品の好感度を上げることです。人はタレントなど目立つ要素に影響されるのです。このような効果を行動経済学では「ハロー効果」と呼びます。「ハロー効果」は、何かを評価をするときに、その顕著な特徴に引きずられて他の特徴についての評価が歪められる現象です。「ハロー」とは「後光がさす」の後光、聖像の光背や光輪を意味します。

米国の心理学者ハロルド・シガールとデビッド・ランディは、この効果を検証する実験を行いました。被験者はカップルのように振る舞う男女2人を見た後で、男性側の印象を答えます。カップルの男性は1人ですが、女性は2人が実験に参加しました。一方の女性は派手ではなく自然で魅力的な容姿です。もう一方の女性は厚化粧で奇妙なウィッグを付けており不自然な姿でした。被験者は2グループに分かれ、どちらかのカップルだけを見て、男性の印象を回答します。評価は、賢く見えるか、自信に満ちて見えるか、才能がありそうか、肉体的魅力が高いか、など複数の項目で行います。

実験の結果、魅力的な女性とカップルだった男性の方が高く評価されました。その理由は、美しく魅力的な女性と付き合っているのだから男性の方も、それに見合う魅力があるに違いないと判断されたことです。つまり女性の魅力が「ハロー効果」を生み、男性の魅力を高めたわけです。

就活において、この「ハロー効果」が影響を与える可能性があります。例えば企業を調べる際に、採用サイトや採用動画がかっこいい、給料が高い、ホワイトな社風であるなど目立つ要素だけに目がいった結果、すべてを吟味せずに良い企業だと判断してしまうことがありえます。あるいは自分自身を評価するにあたり、学生団体の代表だった、スポーツの全国大会に出場したなどの強いエピソードがあることで、良い評価を受けられるだろうと過信してしまう可能性もあります。あるいは面接において、スーツのヨレやシワが目立つ、寝癖がひどいなどで、自己PRのトーク内容ではなく悪印象によって評価が下がってしまう可能性もあります。

このように人は目立つ一部の要素だけを見て、全体を判断してしまうことがあるのです。対象が企業であれ、自分であれ、価値を見誤らないように表面的な判断を避けるべきです。

ステレオタイプなイメージにとらわれないように

ほかにも、総合的な判断を誤る原因があります。「代表性ヒューリスティック」です。これは、論理的な確率ではなく、“ありそうなステレオタイプ(代表的なイメージ)”をもとに判断してしまう心理です。例えば背の高い男性の写真を見せられ、その人がスポーツをやっていると聞いた時に「バスケットボール」や「バレーボール」ではないかと想像することです。また金髪で長身、顔立ちが「外国人風」の人を見ると「きっと英語が話せるだろう」と想像する人は多いかもしれません。このように判断してしまうのは代表性ヒューリスティックの影響です。背が高い=バスケットボールやバレーボールをする人、外国人風=英語を話せる人、といったステレオタイプを元に判断してしまうのです。

もし、就活においては「代表性ヒューリスティック」が働いたらどうなるでしょう。例えば広告会社ならばクリエイティブな仕事ができる、逆に公務員の仕事にはクリエイビティは不要だ、などと考えてしまうかもしれません。現実には広告会社の仕事においても、何かを創造する発想力よりも、地味で地道な作業を求められる場面は多くあります。公務員の仕事においても、地域の開発など新たな発想が必要になる仕事があるでしょう。ステレオタイプな像だけで判断しないことが大切です。

2002年にノーベル経済学賞を受賞した行動経済学者のダニエル・カーネマンは「代表性ヒューリスティック」を含めた「ヒューリスティクス」を、「困難な質問に対して、適切ではあるが往々にして不完全な答を見つけるための単純な手続き」と説明しています。この無意識の思考は、素早く答えを出す場合には役立ちます。また、その結果の判断が必ず間違っているとは限りません。

しかしながら就活における企業や自分自身の分析は、時間をかけて丁寧にやるべきものです。自分でも気づかないうちに、拙速な判断をしないよう気を付けなければなりません。そのためには、まず自分自身が無意識のうちに単純な判断をしかねないと自覚すべきです。このような人間の思考のクセを知っておくことで、正確な分析が可能になるのです。


第1回「ゼミやサークルを優先して、就活を後回しにしてしまうのはなぜ?」を読む
第5回「親・先輩・ゼミ・地元が無意識に影響する!?」を読む
第7回「他者に流されずに志望業界を見定めるには」を読む

著者プロフィール

マーケティング&ブランディングディレクター/昭和女子大学 現代ビジネス研究所 研究員 橋本之克さん
東京工業大学社会工学科卒業後、読売広告社、日本総合研究所を経て、1998年アサツー ディ・ケイ入社。戦略プランナーとして金融・不動産・環境エネルギー等の多様な業界のクライアント向けに顧客獲得業務を実施。2019年独立。現在は、行動経済学をビジネスに活用する企業向けのコンサルティングや研修講師を行う。また企業や商品に関するブランディング戦略の構築と実施にも携わる。著書に『9割の買い物は不要である 行動経済学でわかる「得する人・損する人」』(秀和システム)、『世界最前線の研究でわかる! スゴい! 行動経済学』(総合法令)ほか。