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レポート

コロナ禍でガクチカが書けない人は必見 ─ 就活を成功させるための心理テクニック 第12回

橋本之克さん

コロナ禍でガクチカが書けない人は必見 ─ 就活を成功させるための心理テクニック 第12回

近年大注目の「行動経済学」。不合理な生き物である人間を、心理学と経済学を用いて分析する考え方で、マーケターが消費者インサイト(消費者自身が気づいていない本音や動機)を捉える際にも参考にするメソッドです。就職活動も人の不合理な判断が少なからず起きてしまいます。判断を誤らないように、行動経済学を用いて就活対策をするならば──。

第12回は、「学生時代に力を入れたこと(通称ガクチカ)」のエピソード探しで注意しなければいけないことについて。目の前の就活だけでなく、将来の仕事から実生活にも役に立つ、就活を成功させるための心理テクニックをお伝えしていきます。(マスナビ編集部)

分担の不公平感の原因とは?

テレビCMの種類は、大きく分けて「タイムCM」と「スポットCM」があります。前者は個別の番組で放送するCM広告のことで、「ご覧のスポンサーの提供でお送りしました」などとアナウンスがあるものです。後者のスポット広告は、番組を選ばず、望む期間、局、時間帯、予算などを定めて出稿するCM広告です。狙うターゲットが、出稿期間に何度かCMを見るように計画します。人間は見たものを忘れるからです。一度見たCMを次に見る機会までに忘れてしまうようでは、認知率は上がりません。スポット広告のメディアプランニングでは、必ずターゲットの「CM忘却率」を考慮します。

人間の記憶は、時間とともにあやふやになっていくものです。行動経済学においても、不安定な“記憶”は重要な研究テーマです。

研究の紹介に移る前に一つ、あなたに質問です。家族との家事分担や、サークル活動での仕事分担などで、あなたは不満を抱いたことはありませんか? 例えば、自分ばかりが仕事をして、家族や友人があまり手伝ってくれないといった悩みです。このケースでは、自分の方が周囲よりも多く働いているという判断が不満の原因です。

このような状況は決して珍しくありません。行動経済学者のダニエル・カーネマンは著作で、仕事の分担に関する実験を紹介しています。被験者は夫婦で、夫と妻の両方に「自分の、家事への貢献度」をパーセンテージで尋ねるのです。お互いが正しく判断していれば数値の合計は100%になるはずです。しかし結果的には多くのケースで100%を越えました。夫婦がお互いに、自分の行った家事の割合を実際より多く見積もったのです。

この原因は必ずしも、“嘘つき”や“わがまま”といった人間の特性ではありません。分析によると、原因は「
利用可能性ヒューリスティック」という心理的バイアスの影響でした。これは「思い出しやすい記憶に頼って判断してしまう」「記憶に残っているものほど高く見積もってしまう」心理です。人間は記憶に残っている事柄ほど、その頻度や確率が高いと思ってしまうのです。

実験における夫婦は、二人とも「自分が行っている家事」については、ほぼすべて記憶しています。自分の行動ですから覚えているのも当然です。その記憶をもとに、自分の家事の割合を判断します。逆に相手が行った家事はすべてを見たわけではありませんし、はっきり記憶しているとも限りません。こうした記憶をもとに判断すると、相手が行った家事の量や頻度は相対的に少ないと思ってしまいます。一方で
お互いに自分の仕事量を過大評価してしまったのです。

人は“思い出しやすい記憶”に頼って判断してしまいます。あなたが仕事の分担で不満を抱いたなら、もしかするとこれが原因かもしれません。「相手が手伝ってくれない」とお互いに思いがちです。これは無意識の心理であり、誰にも悪気はないのです。しかし結果的にこの心理によって、人間関係がうまくいかなくなる可能性があります。

苦し紛れのガクチカは自己肯定感を下げる

もう一つ、心理学者のノーバート・シュワルツが行った「利用可能性ヒューリスティック」の実験を紹介しましょう。

まず被験者に、過去の自分の行動の中から「積極的に自己主張したエピソード」を思い出してもらいます。被験者の半数のグループは6個、残りのグループは12個のエピソードを思い出すものとしました。終了後に全被験者に、自身の「積極性の度合い」を評価してもらいます(実は、これが実験の主題です)。この結果、12個思い出したグループの方が6個のグループより「自分の積極性は低い」と自己評価したのです。単純に考えれば、12個思い出した人の方が、「自分の積極性が高い」と考えるのが自然です。不自然な結果に至った原因は「利用可能性ヒューリスティック」です。

実は、こうしたエピソードを思い出す際、最初の3つか4つはすぐに思い浮かんでも、残りはなかなか出てこない傾向があります。このことは実験前に確認済みでした。12個を思い出した被験者は非常に苦労しました。その時の「積極的な自己主張の経験を“容易に思い出せなかった”」記憶は、後の判断に影響します。「思い出せなかったのは、自分が積極的でないからだ」と思い、「自分の積極性は低い」判断したのです。逆に、積極的な経験を6個“容易に思い出した”被験者は「自分の積極性は高い」と考えたわけです。

この実験における「利用可能性ヒューリスティック」による自己判断は、皆さんの就活でも起きる可能性があります。例えば……


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著者プロフィール

マーケティング&ブランディングディレクター/昭和女子大学 現代ビジネス研究所 研究員 橋本之克さん
東京工業大学社会工学科卒業後、読売広告社、日本総合研究所を経て、1998年アサツー ディ・ケイ入社。戦略プランナーとして金融・不動産・環境エネルギー等の多様な業界のクライアント向けに顧客獲得業務を実施。2019年独立。現在は、行動経済学をビジネスに活用する企業向けのコンサルティングや研修講師を行う。また企業や商品に関するブランディング戦略の構築と実施にも携わる。著書に『9割の買い物は不要である 行動経済学でわかる「得する人・損する人」』(秀和システム)、『世界最前線の研究でわかる! スゴい! 行動経済学』(総合法令)ほか。