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レポート
「お祈りメール」にズキンと胸が痛くなったときに読みたい処方箋 ─ 就活を成功させるための心理テクニック 第16回
橋本之克さん
近年大注目の「行動経済学」。不合理な生き物である人間を、心理学と経済学を用いて分析する考え方で、マーケターが消費者インサイト(消費者自身が気づいていない本音や動機)を捉える際にも参考にするメソッドです。就職活動も人の不合理な判断が少なからず起きてしまいます。判断を誤らないように、行動経済学を用いて就活対策をするならば──。
就活は受験と違って正解がありません。お祈りメールが来るもその理由がわからずもんもんとすることも多いでしょう。もしくはお祈りされすぎてなにも感じなくなってしまったなんてこともあるかもしれません。第16回は、そんなお祈りメール(落選・失敗)に対する心の持ちようについて。目の前の就活だけでなく、将来の仕事から実生活にも役に立つ、就活を成功させるための心理テクニックをお伝えしていきます。(マスナビ編集部)
落選に対するメンタルコントロール
失敗に向き合えない心理
そこでここからは行動経済学の観点から、心理的バイアスの影響を受けて、失敗からの学びができない心理状態に陥るケースについて解説します。
第一は「失敗に慣れて、それが当たり前になってしまう」ケースです。そこには「感応度逓減性」が働いている可能性があります。直面する損や得の変化と、それらに応じて変化する喜びや悲しみの感情に関するバイアスです。得や損そのものが小さいうちは、それらが少し変化しただけで感情は大きく変化します。ところが得や損の量や値が大きくなるにつれ、その変化への反応が鈍くなるのです。
例えば「1万円をもらった喜び」をイメージしてみてください。無一文のときにもらったならば、その喜びは大きいでしょう。しかし直前に10万円を手に入れた状況で1万円もらった場合は、無一文のときほどの喜びはないはずです。10万円を得たことで大きな喜びを感じ、1万円を得た喜びが小さく感じられたためです。この「感応度逓減性」は一種の「慣れ」と考えてもいいかもしれません。
就活経験者に話を聞くと……
この続きは、新刊『なんで?を解き明かす行動経済学が導く 納得就活~就活を成功させるための心理テクニック~』で読むことができます。
書籍『なんで?を解き明かす行動経済学が導く 納得就活~就活を成功させるための心理テクニック~』の詳細はこちら
第1回「ゼミやサークルを優先して、就活を後回しにしてしまうのはなぜ?」を読む
第15回「面接官は注目していない前提で面接に臨むべし」を読む
第17回「人間は「感情」にとらわれる動物である。面接官の心理を見逃さない真理」を読む
著者プロフィール
マーケティング&ブランディングディレクター/昭和女子大学 現代ビジネス研究所 研究員 橋本之克さん
東京工業大学社会工学科卒業後、読売広告社、日本総合研究所を経て、1998年アサツー ディ・ケイ入社。戦略プランナーとして金融・不動産・環境エネルギー等の多様な業界のクライアント向けに顧客獲得業務を実施。2019年独立。現在は、行動経済学をビジネスに活用する企業向けのコンサルティングや研修講師を行う。また企業や商品に関するブランディング戦略の構築と実施にも携わる。著書に『9割の買い物は不要である 行動経済学でわかる「得する人・損する人」』(秀和システム)、『世界最前線の研究でわかる! スゴい! 行動経済学』(総合法令)ほか。
企業や業界の分析や自己分析、ESの作成などが終わると、いよいよ面接に臨む段階です。時間をかけて準備した結果が出ることになります。面接の一発勝負は、成功と失敗がはっきり分かれますが、困るのは、その原因がわかりにくい点です。
人が人を判断するため、確固たる一定の基準で測ることが難しく、判断の根拠も不明瞭です。企業が不採用の理由を述べるケースはほとんどありません。通常の“お祈りメール”のなかに、こうした情報はないのです。従って、面接でどのような評価を受け、結果に至ったのかを知ることは非常に難しいです。
就活生側は通常、複数の企業を受験します。しかしすべての志望先企業から内定を得るケースはまれなので、ほとんどの就活生は不合格の経験をすることになります。難関と言われる企業にチャレンジする人ほど壁にぶつかります。
不採用になればメンタル面にダメージを受けます。従って、面接を受けて不採用な場合にどう対処するかも非常に重要です。
就職予備校「我究館」創設者の杉村太郎氏は著書『アツイ コトバ』(中経出版)で、失敗に直面したらしっかりと心を痛めて、自分を変える必要があると述べています。そこで「重心を下げる」べきだと主張しました。受け身になって首を垂れたりうつむいたりするのでなく、体の中心の位置を低くするという行動を“自分の意志で”行うことを勧めています。危機を乗り越えた後でも、失敗で変わった自分を忘れないよう重心を下げ続けるべきだと杉村氏は言います。
失敗は、必ずしもネガティブなものと捉らえる必要はありません。人間は失敗を経て成長し、次の成功へと進むものです。だとすると問題は、不採用の通知を前向きに受け止められないことです。