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レポート

内定はゴールではない。次なるゴールへのスタート地点 ─ 就活を成功させるための心理テクニック 第18回

橋本之克さん

内定はゴールではない。次なるゴールへのスタート地点 ─ 就活を成功させるための心理テクニック 第18回

近年大注目の「行動経済学」。不合理な生き物である人間を、心理学と経済学を用いて分析する考え方で、マーケターが消費者インサイト(消費者自身が気づいていない本音や動機)を捉える際にも参考にするメソッドです。就職活動も人の不合理な判断が少なからず起きてしまいます。判断を誤らないように、行動経済学を用いて就活対策をするならば──。

第18回は、内定後の心の持ちようについて。第一志望に内定をもらって満足している人も、第一志望に落ちて納得していない人も必読です。目の前の就活だけでなく、将来の仕事から実生活にも役に立つ、就活を成功させるための心理テクニックをお伝えしていきます。(マスナビ編集部)

宙ぶらりんのときに脳はどう動いているか

アイデアを創造する人々に薦めたい本に『アイデアのつくり方』(CCCメディアハウス)があります。これは1940年に出版され、数十年経つ今も読まれ続けている知的発想法のロングセラーです。著者のジェームス・W・ヤングは広告会社のコピーライターでした。自身が新しいアイデアを継続的に産み出すにあたって用いた方法を公式化し、著したと言われています。

そこで書かれているアイデア開発の方法は5段階から成ります。第1段階は、まず関連する資料を集めます。第2にそれらを並べ、組み合せながら吟味します。第3段階は考えることを止めて、想像力や感情を刺激する音楽、映画、小説などに触れます。その後、第4段階で、ふとした機会にアイデアが頭に降りてくるというのです。そして第5段階は実際に活用するためのアイデアの具体化や展開です。

私が初めてこの本を読んだとき、第4段階の自然とアイデアが生まれるという内容に関して半信半疑でした。しかし実際の仕事で活用してみると、この通りの方法でアイデアが生まれました。非常に有効で皆さんにもお勧めしたい方法です。

ただし、わかりにくいのは心理的な仕組みです。頭の中で何がどのように働いて、アイデアが生まれるのでしょう。私は、最も重要なアイデアが生まれる段階において、行動経済学における「ツァイガルニク効果」が働いているのだろうと考えました。この効果は、人間が達成できなかった事柄や中断している事柄を、達成できた事柄よりも強く記憶するというものです。

例として、テレビのクイズ番組で問題が出題されて、正解が発表される前に入るテレビCMがあります。この時、視聴者がチャンネルを変えず正解を見たいと思うのは「ツァイガルニク効果」の影響です。テレビCMの「続きはWebで」も同じです。テレビCMの情報が不完全な状態で終わっているため、内容を最後まで知りたくなるのです。

『アイデアのつくり方』における最も重要な第3~第4段階において、頭の中に詰め込まれた不完全な状態の情報をまとめるべく脳は働き続けています。頭は回転していますが、無意識なので考えている実感はありません。結果的に生まれたアイデアは、まるで降りてきたかのように感じられるのでしょう。こうした、不完全な物事を完成につなげる思考を「ツァイガルニク効果」が促していると私は考えます。

見方を変えると「ツァイガルニク効果」は、人間の向上心の現れのように見えます。潜在意識が、物事を完遂しようとする人間の行動を支えているように思えるのです。

この心理を知っておけば、有効に活用できるはずです。もちろん就活においても可能です。特に、第一志望の内定が得られなかった皆さんに、この「ツァイガルニク効果」を活用していただきたいと思います。


この続きは、新刊『なんで?を解き明かす行動経済学が導く 納得就活~就活を成功させるための心理テクニック~』で読むことができます。
書籍『なんで?を解き明かす行動経済学が導く 納得就活~就活を成功させるための心理テクニック~』の詳細はこちら

止まない雨はない

一方、第一志望の企業から内定を獲得できた人も、次のゴールに向けて進んでいく途中です。就活の結果を引きずり過ぎていけないのは同じです。次のステップに向けた気持ちの切り替えが重要になります。

そこで意識してほしい行動経済学の法則が、「投影バイアス」です。これは将来における自分の状態を予測する際に、現在の自分の状態に引きずられてしまうバイアスです。現在の状態や感情などが、将来も変化せずに続くと思いこんでしまうのです。

身近な例として、空腹でスーパーに行って食材を買い過ぎてしまった経験はありませんか?すぐに、それらを食べるわけではないのに必要以上に買ってしまうのは「投影バイアス」の影響です。

就活においても……


この続きは、新刊『なんで?を解き明かす行動経済学が導く 納得就活~就活を成功させるための心理テクニック~』で読むことができます。
書籍『なんで?を解き明かす行動経済学が導く 納得就活~就活を成功させるための心理テクニック~』の詳細はこちら



第1回「ゼミやサークルを優先して、就活を後回しにしてしまうのはなぜ?」を読む
第17回「人間は「感情」にとらわれる動物である。面接官の心理を見逃さない真理」を読む
第19回「最終面接で揺れる心。内定後も羨む心」を読む

著者プロフィール

マーケティング&ブランディングディレクター/昭和女子大学 現代ビジネス研究所 研究員 橋本之克さん
東京工業大学社会工学科卒業後、読売広告社、日本総合研究所を経て、1998年アサツー ディ・ケイ入社。戦略プランナーとして金融・不動産・環境エネルギー等の多様な業界のクライアント向けに顧客獲得業務を実施。2019年独立。現在は、行動経済学をビジネスに活用する企業向けのコンサルティングや研修講師を行う。また企業や商品に関するブランディング戦略の構築と実施にも携わる。著書に『9割の買い物は不要である 行動経済学でわかる「得する人・損する人」』(秀和システム)、『世界最前線の研究でわかる! スゴい! 行動経済学』(総合法令)ほか。