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レポート

他者に流されずに志望業界を見定めるには ─ 就活を成功させるための心理テクニック 第7回

橋本之克さん

他者に流されずに志望業界を見定めるには ─ 就活を成功させるための心理テクニック 第7回

近年大注目の「行動経済学」。不合理な生き物である人間を、心理学と経済学を用いて分析する考え方で、マーケターが消費者インサイト(消費者自身が気づいていない本音や動機)を捉える際にも参考にするメソッドです。就職活動も人の不合理な判断が少なからず起きてしまいます。判断を誤らないように、行動経済学を用いて就活対策をするならば──。

第7回は、「先輩が就職したからいつの間にか自分も同じ志望業界を目指していた」「親が働いていたから自ずとその職種を意識していた」といった心理について。目の前の就活だけでなく、将来の仕事から実生活にも役に立つ、就活を成功させるための心理テクニックをお伝えしていきます。(マスナビ編集部)

頭の中に錨が刺さって選択の幅が狭まる?

パーソルキャリアが16,000人のビジネスパーソンに行った「転職に関する意識調査」によれば20代の約61%が転職に関心がある、または経験しているそうです。


筆者自身も銀行系のシンクタンクから広告会社へ転職した経験があります。その広告会社は広告関連業種からの転職者が多く、異業種からの転職者は少数派でした。転職者に話を聞いた限りでは、異業種への転職を検討しない人が多かったです。この例に限らず、転職の際には過去に在籍した業界に移るケースは多く見られます。


行動経済学の観点では、この現象は「アンカリング」に影響されていると考えられます。これは、はじめに得た「アンカー(船の錨の意味)」と呼ばれる情報が判断を歪め、後の価値判断や予測をアンカーに近づけてしまう心理です。通常は、その後に「調整」したうえで最終判断を下します。しかし錨を下した船と同様に、錨の近くの狭い範囲内でしか判断や予測ができなくなる傾向があります。


米国のダニエル・カーネマン教授らは、この法則を実験で証明しました。被験者はまず0~100のなかで一つの数字が当たるルーレットを試します。彼らは知らされていませんが、ルーレットは65か10のどちらかで止まる仕掛けです。一方のグループでは10が、もう一方は65が当たります。その後、両グループは「国連に占めるアフリカ諸国の割合」を推定します。この結果、ルーレットで65を引いた被験者では、回答の中央値(データを大きさで並べた時、最小値と最大値の中央に位置する値)が45、10だった被験者では25となりました。直前に見た何の意味もないルーレットの数字に、解答が近づいたのです。


このように、無意識に知った事前の情報が判断を限定することがあります。転職時に「アンカリング」が働くと、過去に経験した範囲だけで転職先を探すわけです。


しかしながら、実は「アンカリング」が発動するのには意味があります。時に人は、正しい予測が難しい選択を迫られることがあります。判断に必要な分析を360度全方位で行う余裕がない場面で、脳はまず、あたりをつけて大まかな選択範囲を定めます。これが「アンカリング」です。そのうえでより良い結果に近づくよう最終的な選択を行います。これが「調整」です。これらの組み合わせによって比較的早く、比較的正しい選択をしようとするわけです。ここでの問題は、最初にあたりをつける「アンカリング」が誤っていた場合に、根本的な修正が不可能になることです。


では新卒の場合はどうでしょう。皆さんは、そういった観点で就職先を探していますか? 



この続きは、新刊『なんで?を解き明かす行動経済学が導く 納得就活~就活を成功させるための心理テクニック~』で読むことができます。

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著者プロフィール

マーケティング&ブランディングディレクター/昭和女子大学 現代ビジネス研究所 研究員 橋本之克さん

東京工業大学社会工学科卒業後、読売広告社、日本総合研究所を経て、1998年アサツー ディ・ケイ入社。戦略プランナーとして金融・不動産・環境エネルギー等の多様な業界のクライアント向けに顧客獲得業務を実施。2019年独立。現在は、行動経済学をビジネスに活用する企業向けのコンサルティングや研修講師を行う。また企業や商品に関するブランディング戦略の構築と実施にも携わる。著書に『9割の買い物は不要である 行動経済学でわかる「得する人・損する人」』(秀和システム)、『世界最前線の研究でわかる! スゴい! 行動経済学』(総合法令)ほか。